運動器疾患の鍼灸治療症例集

鍼灸治療症例集の中から、「左膝の痛み」、「右ふとももの裏の痛み」など運動器疾患でお困りの方に対して行った鍼灸治療についてご紹介いたします。膝痛、腰痛、肩痛などの運動器疾患は、鍼灸治療が最も得意とする疾患の1つです。

運動器疾患には鍼灸が効果的

当院に来院される患者さんの中にも、運動器疾患を主訴とした方が多くいらっしゃいます。

当院の治療の場合、からだ全体のバランスを整える鍼灸治療のため、内科疾患や婦人科疾患など様々な疾患に効果が期待できますが、一般的によく知られているように、腰痛、四十肩・五十肩、肩こり、膝の痛み、大腿痛(太ももの痛み)などの運動器疾患も、鍼灸治療が最も得意とする疾患です。

膝の痛み

今回は来院治療した患者さんの中から、「膝痛」で悩んでいる方の事例を取り上げたいと思います。それでは、簡単に鍼灸治療の経過と東洋医学的見解を述べたいと思います。

Q1 左膝の痛みで困っています。(M.Iさん、80代、女性、無職)

もともと健康で家の周りでの畑仕事を現在もしています。ところが、数日前に畑仕事をしてから左膝が痛み夜も寝れないほどでした。膝痛は過去にも何度かあったのですが、しばらくすると治っており、今回ほどの痛みを経験したのははじめてです。

A1 胃の弱りと足の陽明胃経の異常が原因です。5回の鍼治療で大幅に改善しました。

この方の場合は、腎の弱りが根底にあり、そこに畑仕事で無理をしたため、足の陽明胃経(あしのようめいいけい:膝を通る経絡の一つ)の経絡に異常を起こしたと判断しました。

M.Iさんのその後の経過

この女性の場合、5回ほどの治療で痛みはほぼ取れ、夜も寝れる様になりました。 ただ腰が曲がっているのと、足の筋肉の引きつり(筋の拘縮)が少しあるので、継続して治療を受けるように指導し現在治療継続中です。

「膝痛」の東洋医学的見解

膝痛も東洋医学的にはいろいろ要因が考えられます。主なものを列記しますと、

  1. 気血両虚(きけつりょうきょ:気と血の不足)によるもの
  2. 肝腎両虚(かんじんりょうきょ:肝と腎の臓の弱り)によるもの
  3. 湿熱(しつねつ:湿熱の邪)によるもの
  4. 寒湿(かんしつ:寒湿の邪)によるもの/li>
  5. 熱毒(ねつどく:熱毒の邪)によるもの
  6. 湿毒(しつどく:湿毒の邪)によるもの

上記6つの要因の他にも様々なものが考えられます。

右ふとももの裏の痛み

今回は来院治療した患者さんの中から「大腿後面痛」で悩んでいる方の事例を取り上げたいと思います。それでは、簡単に鍼灸治療の経過と東洋医学的見解を述べたいと思います。

Q2 右ふとももの裏(大腿後面)の痛みで困っています。(S.Kさん、20代前半、男性、学生)

日曜日に野球をしていて打席から一塁に走ったときに痛める。自然に治ると思い約10日間何の治療もしなかったが治らず、四日後の日曜に試合があるので何とかしてほしいとのことでした。

A2 足の厥陰肝経の異常です。打鍼、皮内鍼といった治療が有効でした。

この方の場合は、器質的には大きなダメージが無く、物理的な負荷が足にかかったために足の厥陰肝経(けついんかんけい:足を通る経絡の一つ)に異常が起こったと考えました。

S.Kさんのその後の経過

試合まで4日ということで、初診の後、試合前日にも治療に来てもらいました。初診の治療で痛みが約7割取れランニングもできるようになりましたが、しゃがんだ姿勢で痛むのと全力でまだ走れないとのことでした。2回目の治療直後から、しゃがんだ姿勢での痛みはなくなりました。

ちなみに、治療は初診が打鍼という刺さない鍼を腹部に行い、左行間穴(ひだりぎょうかんけつ:足の第一第二基節骨の間、足の親指と人差し指の間の前側)に皮内鍼というテープで留める鍼をしました。2診目は打鍼、左行間穴に皮内鍼、右天枢穴(みぎてんすうけつ:臍の外方約4センチ)に通常の鍼を行い、試合前ということで患者の希望もあり右大腿後面にキネシオテープを張りました。

治療家には、自信につながる症例の経験が大切

S.Kさんのは少し前の症例ですが、私にとっては思い出に残る症例の一つです。

このコーナーで載せているのは基本的に上手くいった症例ですが、その中でも上手くいったほうだと思います。今から思えば簡単な症例で弁証(べんしょう:身体がどのようにアンバランスなのかという東洋医学的判断)も単純なケースですが(物理的負荷によるケースが簡単ということではなく、S.Kさんの身体のアンバランスが複雑ではなかったということ)、自分の弁証に対して自信が持てた症例でした。

治療家にとって必要なものはたくさんあるのですが、治療家自身の自信というのもとても大事だと思います。それは自分が自信を持てる症例をいくつか経験することだと思います。

私の場合は自分の母親(橋本病という甲状腺の病気なのですが)を鍼灸で治療して症状を良くしたというのが一番の自信になっています。母の場合は病院にも通いながらでしたが、明らかに鍼灸を加えたほうが症状は良くなりました。現在は数値的に安定していますが医師から一生薬は服用しなければならないといわれ現在も薬を服用していますが、個人的には東洋医学でいつか服用しなくても済むようにしたいと思っています。

S.Kさんの症例は自分の弁証に自信が持てたということで、私のいくつかある大事な症例の中の一つです。

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