眼科疾患の鍼灸治療症例集

鍼灸治療症例集の中から、「目のかすみ」など眼科疾患でお困りの方に対して行った鍼灸治療についてご紹介いたします。東洋医学の考えでは、目と肝は密接な関係を持っており、「目のかすみ」でお困りのE.Fさんもこの例に当てはまります。鍼灸治療を受けるととともに、枸杞(クコ)の実を食したり、散歩も効果的です。

鍼灸は、目の症状の改善にも効果的

現代人は、思った以上に目を酷使しています。一昔前までは、野山の風景を愛で、夜になると星空を眺めました。日常的に、近くを見るだけでなく、遠方を見ることで目のバランスを保っていました。しかし、オフィスワークを中心に、近くばかり見ることが習慣となり、目の病気、目の症状を訴えるかたが多くなってきました。

当院でも、目の病気・目の症状を訴える方が多く見受けられます。目の症状にも鍼が有効だということを知っていただくために、当院に来院されている患者さんのケースをご紹介いたします。

目の病気・目の症状を訴える方の多くは、別の症状を持っていらっしゃいます。主訴が目の症状の場合だけでなく、随伴症状として目の症状を訴えている方のケースも取り上げようと思います。

目のかすみ

今回は、随伴症状として目のかすみに困っていた方をご紹介いたします。鍼灸によって目のかすみも改善した好例としてご参照ください。

Q1 目のかすみで困っています。(E.Fさん、50代後半、女性、病院勤務)

仕事でパソコンを使うことが多く、疲れてくると、肩や背中がこってきて、腰痛が出るようになります。また目がかすみ、目の奥が痛くなるなど、目の症状もあり、それに付随して視野が狭くなるような感じになります。ひどくなると目も開けていられなくなることもあります。

A1 肝の臓の変調です。肝の血を補うような、鍼灸治療、食べ物、お散歩などが有効です。

このかたの場合、東洋医学的にいうと「肝の血が不足し、肝の気が実(過剰)になった状態」です。体のなかで血や津液は陰を表し、気は陽を表すので、この場合は陰が不足して陽が過剰になった状態ということです。

「肝は目に開竅(かいきょう)する」という言葉があり、は密接な関係があります(「簡単中医学講座」の「臓腑について」を参照ください)。もちろんすべての目の症状が、肝の臓の変調ということではないのですが、肝の臓が絡むケースは多いです。

またパソコンなどで目を酷使するとどうしても肝の血が使われるため肝の血が不足します。このような場合は枸杞(クコ)の実などが良いです。枸杞(クコ)には滋補肝腎・明目の作用があるので、食されると良いと思います。また気の実(気の過剰)による気の停滞を取るため、お散歩などもされたほうが良いでしょう。

E.Fさんのその後の経過

E.Fさんは7回ほど当院に通われています。1回目と2回目は、あまり大きな変化は無かったのですが、体のバランスが整うにつれて、鍼灸治療後は視野が広くなり、目も開き、かすみも無くなり、肩のこりもとれてきました。ただどうしても仕事でパソコンを使うので、仕事で疲れると肩や腰のこり、目のかすみが起こりますが、それでも以前と比べると大分改善されたとのことです。

「目のかすみ」の東洋医学的見解

視力が減退し、事物がはっきり見えないことを、東洋医学では目昏(もくこん)といい、目のかすみもこれに含まれます。目昏は大きく分けて以下の6つに分類されます。

目昏(もくこん)の分類
分 類状 態
風痰上擾(ふうたんじょうじょう)体のなかの湿痰が体のなかの風邪(ふうじゃ)と共に上擾すること(上に昇り乱すこと)により起こるもの。
肝鬱気滞肝の疏泄作用(そせつさよう、気を巡らすこと)が低下して気が停滞したため起こるもの。
心肝血虚肝血や心血が不足して目を滋養できないため起こるもの。
脾虚脾の運化作用が低下して起こるもの。
肝腎陰虚肝腎の陰虚で精血が不足し目を滋養できないもの。
腎陽虚腎陽が衰えてたため起こるもの。

E.Fさんは、「肝鬱気滞心肝血虚の2つが複合したタイプ」

E.Fさんの場合は、6つの分類でいうと、2番目の「肝鬱気滞」と3番目の「心肝血虚」の2つが複合したタイプになります。

E.Fさんは、当院に来院されたので、肝兪※1太衝※2などのツボに鍼をおこないました。また、養生としてクコの実の服用や、散歩などを指導しました。

目のかすみといっても、E.Aさんのようなケースだけでなく、いろいろな原因によって起こります。似たような症状でも、同じ原因とは限りません。目のかすみくらいなどと軽く考えず、一度専門の先生にご相談されたほうが良いでしょう。

※1肝兪、※2太衝等のツボですが、鍼が有効の場合と、お灸が有効な場合があります。どちらが有効かは、東洋医学による診察を行わないとわかりません。そのため、ツボの図は省略させていただきました。今回の患者さんの場合は、鍼が有効でしたが、お灸の場合は、家庭で行うことも可能です。どちらにしても、まずは鍼灸院に行かれることをお勧めします。

参考文献:『症状による中医診断と治療』燎原書店

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