「院長の独り言」ジャンル別

「院長の独り言」をジャンル別でご紹介しています。鍼灸・東洋医学に対してもっと身近に感じていただこうと、一般の方にわかりやすく鍼灸・東洋医学にまつわるトピックを中心にお届けします。民間薬草や健康食材にまつわる話、鍼灸・東洋医学・健康に関する一般書などもあわせてご紹介いたします。

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「院長の独り言」ジャンル別~2023年~2025年に紹介した書籍

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鍼灸・東洋医学・医療関連書籍

『カウンセリングの理論』(國分康孝著、誠信書房)(2024年3月)

本書『カウンセリングの理論』はカウンセリングについての様々な理論をカタログ的に概括しているので、私のようなカウンセリングをよく知らない者にとっても、大いに参考になります。

紹介されているのは、精神分析理論、自己理論、行動主義、特性・因子理論、実存主義的アプローチ、交流分析、ゲシュタルト療法、論理療法です。

個人的に面白かったテーマは幾つかあるのですが、一つは精神分析理論の中のリビドー発達的見地というものです。

この理論では、赤ちゃんの誕生から離乳までを、口唇期と名付けています。

この理論の面白いところは、赤ちゃんからの乳の求めを親が拒否することは、単にお腹が空くとか栄養が不足するということだけでなく、愛情の拒否につながるというものです。

ですので、親の乳の拒否が多すぎると、慢性の愛情飢餓、人生に対してネガティブになりがち、逆に特に離乳期に親の乳の拒否が少なすぎると、わがままな人間、感謝を知らない人間になりがちです。

なので、与えるべき時期には気前よく与えて、離乳の時期には分離不安を感じさせないように徐々に離乳させることが大事になります。

授乳を含め食体験は愛情体験でもあるので、これがうまくいかないと甘えん坊や酒飲みになりがちとされています。

昨今食事シーンをメインにしたドラマが数多く放送されているようですが、食体験は愛情体験だと考えると現代の世相を反映しているのかなと感慨深いものがあります。

また、この理論では離乳から入園ぐらいの時期、トイレの訓練の時期を肛門期と呼んでいます。

トイレの訓練はあらゆるしつけの原点となるもので、トイレに行くまで我慢させるのがその要点となります。

トイレのしつけが厳しすぎると、四角四面、融通の利かない人間になりがち、ケチな人間になりがちとされています。

本書では、複数の理論が紹介されていますが、一つの理論で当てはまるケースもあれば当てはまらないケースもあるでしょう、複数の理論を持つということは複数のものさしを持つということですので、一つのものさしで当てはまらなければ他の当てはまるものさしを使うということです。

複数のものさしを持つメリットはあると思います。

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『画像ではわからないしつこい腰の痛みを治す本』(井須豊彦監修、講談社)(2023年10月)

本書『画像ではわからないしつこい腰の痛みを治す本』は釧路労災病院脳神経外科部長である井須豊彦医師が一般の患者さん向けに書かれた腰痛の本です。

非常にわかりやすく書かれており、私たち鍼灸師も患者さんへの説明の参考になります。

いろんなことが書かれていますが、私が特に興味深く思ったのが、患者さんの腰痛に対する認識に対する啓蒙の部分です。

以下要約すると、

〇「原因が分からないはずがない」との患者さんの思い込み

高度に発達した現代医学でも実は腰痛の八割はちゃんとした原因が分からいことが多く、画像検査で見つかる異常が必ずしも痛みの原因とは限らない。

上殿皮神経障害、梨状筋症候群、仙腸関節障害など末梢神経による腰の痛みは画像では分りづらく、また心因性の腰痛もある。

〇「すぐに痛みをとって欲しい、とれるはずだ」との患者さんの思い込み

テレビなどのマスコミが盛んに神の手、スーパードクターと喧伝していますが、手術にはどんな名医であっても100%は無く、必ずリスクがある。

手術自体は成功してもしびれなどが残ることもあり、安易に手術を選択するのではなく、手術は慎重に考えたうえで選択する。

〇「症状がすべて無くなる以外治療の効果を認められない」との患者さんの思い込み

慢性の症状の原因は一つとは限らず、筋肉の強張りなど様々な要因が関係し、心の状態によっても症状の感じ方が異なる。

痛いからといって必要以上に体を動かさないと筋肉が弱まり、かえって痛みが出やすくなるという悪循環になる。 少々の痛みがあっても、無理せず出来る範囲で体を動かす。

一般の患者さんが読んで参考になることがたくさん書かれている良書です、興味のある方は読まれてみてはと思います。

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『増補改訂版 心の傷を癒すということ』(安 克昌著、作品社)(2023年3月)

本書『増補改訂版 心の傷を癒すということ――大災害精神医療の臨床報告』は阪神淡路大震災を通して心の傷を癒そうと取り組んだ精神科医の安 克昌さんの記録で、テレビドラマにもなり、非常に心打つ内容でした。

本書には個人的に参考になることがいくつか載ってましたので、紹介したいと思います。

PTSDの症状
①覚醒亢進(交感神経の活動が亢進)
②再体験(フラッシュバックなど)や悪夢
③回避(PTSDを起こした状況と似た状況を避けることで社会が狭くなる)と麻痺(心を凍らせて感情が麻痺した状態)

PTSDの治療
①安全であるという感覚を取り戻す
②その恐ろしい体験と折り合いをつける(世界はそのような恐ろしいものではない、たまたま起こった)
③生理的ストレス反応を統制する
④安定した社会的つながりと対人関係における効力を再確認する

J・T・マルツバーガー
□自殺につながる耐えがたい感情
①深い孤独感
②無価値感
③殺害に至るほどの怒り
□緩和するための道
①他者との関係
②仕事との関係
③自己の部分との関係

ラファエル
「子供は起こった出来事を自分が愛されていないとか、攻撃的なことの結果として、あるいは自分が拒絶されていることの表れとして受け取る危険がある。だから持続的な愛情と配慮で子供を安心させて元気づけてやることが肝要なのである」

外傷性記憶
①断片的
②非言語的
③悲しみや怒りなど感情を伴う(悲しみは胸、怒りは腹と結びつくことが多い)
④否定的な感情が結びつく(自分はダメだなど)
⑤自分の他の記憶と溶け込まず区画化され異物感がある
⑥自己に侵入し自己を苦しめるかたちで出てくる
⑦他の外傷性記憶とリンクしている
※外傷性記憶が消えていくときはこれらがうすまる
□治療
①安全
②想起と喪の作業
③社会との再結合

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『100年足腰』(巽一郎著、サンマーク出版)(2023年2月)

本書『100年足腰』は湘南鎌倉総合病院人工膝関節センター長である巽一郎医師によって書かれたものです。

著者は手術が専門の医師でありながら、初診の患者にはまず3ヶ月の保存療法を勧めており、軟骨が消失した膝痛の46%は手術をしなくても歩けるようになると書かれています。

それは膝痛の原因は多くは姿勢が悪くなり(頭が前に出る姿勢)その為体の使い方(歩き方)が悪くなり膝に負担が掛かるというものです。

巽医師は①体重を減量すること、②大腿四頭筋をよみがえらせること、③内もも歩きをすること、その為の体操などをレクチャーし3ヶ月間やってもらうと多くの場合改善されるというもので、それでも良くならない場合は手術検討するということです。

本書ではその他のことも色々書かれており、例えば血圧は年齢プラス90までであれば症状がなければ大丈夫であるとか、糖尿病の多くは食べ過ぎが原因であり、食べ過ぎの要因の根底にはストレスがあるとか、現在の西洋医学は原因療法でなく対症療法のための薬が出されることが多いなど書かれていました。

私も普段そうではないかと思っていたことがかかれていて、心を強くする思いでした。

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武道・東洋思想関連書籍

『老子 その思想を読み尽くす』(池田知久著、講談社学術文庫)(2024年9月)

本書『老子 その思想を読み尽くす』は『老子』の解説書ですが、私達が通常目にする通行本の『老子』だけではなく、それよりも古い馬王堆帛書の『老子』甲本と乙本、郭店楚墓竹簡の『老子』甲本と乙本と丙本、北京大学竹簡の『老子』も参考にし、その他『荘子』や『淮南子』などの道家の書や『呂氏春秋』などに引用された道家の文章などから『老子』の書を読み解こうとするものです。

古い『老子』は通行本の『老子』と比べて、分量が少なかったり、異なるところがあったりして『老子』は中国戦国時代後期から前漢初期にかけて成立したものであるということ。

他の書物の文章や『老子』の文章における言葉の使われ方から、同じ言葉でも意味合いが違っているということ、特に「自然」という言葉の使い方の違いから『老子』が古い道家の思想とその当時の新しい道家の思想が混在しているということ。

道器論(道(形而上の目に見えない万物の根源や働き)と器(形而下の目に見える万物)の関係性)が『老子』の重要なテーマの一つであると思われるが、そこから派生して聖人の無為自然が述べられ、無為(道)と自然の関係性が変化し、新しい道家の思想では自然の方にウエイトがシフトしているということ。

等々本書を読んで非常に面白かったです。

話は脱線しますが、私は子供の頃から『老子』に非常に惹かれました。

何でそんなに惹かれるのか改めて考えてみました。

『戦争と平和』や『イワンのばか』などで知られるロシアの文豪トルストイですが、『老子』を非常に高く評価していました。

彼は『老子』のこれもまた重要なテーマの一つであると思われる不争・戦争の否定の教えに感銘を受けていたようです。

人によって、色んな読み方、色んな惹かれるポイントがあると思いますが、私は何で惹かれるのか? 二点ほど思い浮かびました。

一つは、逆説的な表現。

もう一つは、読後感が息苦しさが無くなる感じ。

逆説的な表現は、ことわざなどで多く使われます。

例えば「急がば回れ」、急いでいるのだから近道すればいいのにあえて遠回りせよ、これは慌てず着実な方法をとれということを逆説的に表現したもの。

読後感が息苦しさが無くなる感じ、というのは説明が難しいのですが、例として『老子』の中に「学を断てば憂いなし」とか「無知」を勧める文章があります。

この当時の学問・知というのは儒家の学・知であり、仁や礼といった儒家の価値観、儒家の正義によって世の中を変革しようというものでした。

現代でもそうですが、一つの価値観、一つの正義によって強制される世界はあまり居心地が良くありません。

武力にしろ、知・価値観にしろ、仮にそれが正しいものであっても強制されることは良くないと『老子』は謂っているように私には思えてなりません。

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