「院長の独り言」年度別

「院長の独り言」を時系列でご紹介しています。鍼灸・東洋医学に対してもっと身近に感じていただこうと、一般の方にわかりやすく鍼灸・東洋医学にまつわるトピックを中心にお届けします。民間薬草や健康食材にまつわる話、鍼灸・東洋医学・健康に関する一般書などもあわせてご紹介いたします。

「院長の独り言」特別編

「『宮廷女官チャングムの誓い』について太玄堂鍼灸院院長福田に聞く」(2006年7月)

現在NHK総合テレビで放送中の「宮廷女官チャングムの誓い」は、高い視聴率で多くの方にみられていると聞きます。

当サイト制作担当の私は、太玄堂鍼灸院院長の福田さんから「韓国の歴史や韓国の医学のことをとりあげているのでおもしろいですよ」という話を聞いたことをきっかけに「宮廷女官チャングムの誓い」をみるようになりました。

はじめて「宮廷女官チャングムの誓い」をみた私は、多くのチャングムファン同様、「宮廷女官チャングムの誓い」の魅力にはまってしまいました。それ以来「宮廷女官チャングムの誓い」を毎回みています。

「宮廷女官チャングムの誓い」のドラマをみて私が感じたことをご紹介しますと、

  1. 一人ひとりの人物描写が丁寧で、魅力あるものに仕上がっていること。
  2. チャングムとミン・ジョンホの愛の描写も、燃え上がるような関係ではなく(身分制度のはっきりした時代なので仕方がない部分もあるとは思いますが)、さわやかで、つつましやかなものであり、互いの立場や置かれている状況、志(こころざし)などを尊重しつつ、縁の下で支えあっている清らかなものを感じるところ。
  3. チャングムの料理の師であるハン尚宮との師弟愛、医の師であるチャン・ウンベク、チャン・ドク、シン・イクピルとの師弟愛など、強い絆と深い信頼関係。
  4. 韓国の歴史の一端に触れることができるところ。薬食同源に基づく宮廷料理と水剌間の女官の料理に対する姿勢、韓医学の奥の深さ。

どれをとっても魅力あるものばかりで、日本の大河ドラマをみたときのような奥深さを感じます。

今回の院長の独り言は、日本ばかりでなく、本場韓国やアジア各国で高視聴率を持つ「宮廷女官チャングムの誓い」ついて、東洋医学・鍼灸の専門家である太玄堂鍼灸院院長の福田さんに、当サイト制作担当の私がいくつか質問をぶつけてみました。これからみなさんが「宮廷女官チャングムの誓い」をみるなかで、参考にしていただけると幸いです。

1.「宮廷女官チャングムの誓い」のドラマをみて、どのようなところに魅力を感じますか?

そうですね。まず私自身東洋医学に携わるものとして東洋医学に関係したドラマであるということが一つ。もう一つはストーリーがきちっとしていて面白いということですね。いくら東洋医学に関したドラマであっても内容が面白くなければファンにはなりませんから(笑)。

2.「宮廷女官チャングムの誓い」に登場する人物の中で、どの人物(チャングム、ミン・ジョンホ、ハン尚宮、チャン・ウンベク、チャン・ドク、シン・イクピル、チェ・グミョン、カン・ドックなど)に興味を持ちましたか?

一番はチャングムですが、チャングムを除いて考えると、他の登場人物のなかではグミョンでしょうか。登場人物のなかで一番複雑な人物ですよね。はじめはチャングムのよきライバルであり友情も感じていたグミョン。ハン尚宮とチェ尚宮との料理対決でチャングムが失敗をしたため皇后のお付きだった女官の病気の世話をする為に郊外のお寺に行かされたとき、グミョンはチャングムを心配して見に行くんですよね。そこでミン・ジョンホとチャングムの姿を見てジョンホの心が自分ではなくチャングムにあることを知り、それがグミョンの生き方が大きく変わるきっかけのひとつになるのですが。本来は陰謀や策略が嫌いで純粋に生きたかったが曲がらざるをえなかったグミョンの運命は物語を奥深くしている一つの要素だと思います。

3.どの俳優さん(男優・女優)に魅力を感じますか?

特別この俳優さんというのはないです。

4.「宮廷女官チャングムの誓い」の中で好きな場面があったら教えてください。

第7話「失意の日々」でチャン・ウンベクをはじめ菜園の人々はやる気を無くしていました。そんななかチャングムは一人キバナオウギを育てます。そしてとうとうキバナオウギが芽をだすと菜園の人々も希望を取り戻し活気が出てきます。この話ではどんなときでも希望を失わずに生きることの大切さを私達に教えてくれており、私の好きな話の一つです。

5.韓方(韓国の伝統医学)は中医学(中国の伝統医学)を元にして韓国で独自に発展した医学だそうですが、韓方はどのような医学なのか、中医学や漢方との共通点あるいは相違点をわかる範囲で簡単に教えてください。
ちなみに「チャングム大研究」の中で、千葉大学大学院和漢診療学寺澤捷年教授が韓方や漢方の解説者として出演されていましたが、寺澤先生によると「私たち漢方の専門家はお腹の診断にも力を入れていますが、韓方は脈の診断に力を入れているようですね。韓方と漢方は同じ中国の医学を根っこにしていますが、国情によって300年ほど違った発達を遂げてますので。」というお話をされていました。

韓方についてはあまり詳しく無いので、ちょっとだけ述べます。

古代の韓国ではもともと薬草学が盛んでした。その後中国から医学が伝わりそれがそのまま使われた時代があります。その後韓国国内の薬草の知識と中国医学理論の統合された時代となります。これにより韓国独自の医学つまり韓方が生まれたとされています。これが『東医宝鑑』という書物などに結実するわけです。

面白いのは李王朝末に李済馬という人が『東医寿世保元』という本を書き四象医学を提唱します。四象医学とは人の体を4つの体質にわけその体質を改善していくものでこれなどは韓国独自の医学理論体系となっています。

6.「宮廷女官チャングムの誓い」の中で、チャングムが済州島(チュジュド)チャン・ドクから医術を学んでいた時や医女修練生時代に、医学用語や経絡の流れに沿って体のツボを反芻する場面が何度も登場します。

イ・ヨンエさんは、先日NHK総合で放送された「チャングム大研究」という番組のインタビューで、
「医女編では専門用語が多くてとにかく丸暗記しました。それがすごく大変で頭が爆発しそうでした」
というお話をされていました。

福田さんや鍼灸師のみなさんは、どのようにして体のツボを暗記したり、どのようにして難しい東洋医学の専門用語を覚えるのでしょうか?

どのようにして憶えるのかとの質問ですが、ひとつひとつ憶えるよりしょうがないですね。語呂合わせや歌にして憶えるなどみんな工夫しますがやっぱり大変です。

ただ実際の臨床で使うツボはある程度決まっているので臨床では全てのツボを憶えている必要は無いです。 東洋医学の用語に関しては憶えていないと本で調べたりするときにに困りますね。東洋医学の用語に関しては少なくともある程度は覚えていなくてはならないと思います。

7.第33話の中で、シン・イクピル教授が、医女修練生であるチャングム、シンビに3名の女性患者を診るように指示し、即座に病名と処方を下すチャングムに対し、シンビはすぐに病名と処方を下せず悩む場面があります。それに対しシン・イクピル教授は、10日間診察を行い、正確な病名と処方箋を出すように命じます。その間シンビは患者さんとの丁寧に対話をし、書き留めていきます。それをみていたチャングムが自分が見逃していたものに気づきます。

このことは、丁寧に問診や脈診などの手法を駆使してからだ全体のバランスを診て治療方針を決める福田さんのような東洋医学的な手法に基づいた鍼灸治療の専門家の姿勢につながるものと思います。この場面をみて、福田さんはどのように感じましたか?

東洋医学に限らず西洋医学でもそうでしょうが、医学というものにとって診断がいかに大切であるかを示していると思います。そのために最大限の努力をしなければならないということを再認識させられる場面でした。

しかし、ただ時間をかければ良いと言う訳ではなく、慢性の病ならば多少診断に時間がかかっても良いでしょうが急性の病であれば時間の経過によって急激に悪化することが考えられるので早急に判断しなくてはなりません。診断は正確にしなくてはなりませんがいたずらに時間をかければ良いというものではないと思います。

8.「宮廷女官チャングムの誓い」の中で使用されている鍼はとても太くて痛そうな鍼ですが、私が受けた鍼治療は、とても細くて痛みをほとんど感じませんでした。朝鮮半島の鍼治療で使用される太い鍼と、日本で使用されている細い鍼の違いを教えてください

チャングムのドラマにも出ていたように確かに韓国や中国の鍼は日本の鍼より太いです。

鍼の形はその民族の体質や生活環境などにより長い年月かけて変化したものなので一概にどれが良い悪いというものではありません。

ただ一般的には太い鍼のほうが気を動かしやすいとはいえると思います。

日本人は良くも悪くも繊細な人が多いので細い鍼のほうが良いケースが多いと思います。

面白いのは中国でも北京や上海などの大都市では日本の鍼が次第によく使われるようになってきました。これなども生活環境の変化が影響していると思います。

9.「宮廷女官チャングムの誓い」の中で、問診や脈による診断、舌による診断、顔色の診断など様々な診断法が登場しますが、それぞれの診断法の特徴と重要性について教えてください。

問診は東洋医学の初学者から使える有効な診断法です。しかし、患者さんの思い込みによって間違った情報が伝えられたり、患者さんは様々なことを言うのでその中から必要な情報と必要でない情報を選り分ける技術が必要です。昔の名人の中には問診は患者に惑わされるだけということで不問診断(問診をしないで他の診断法、例えば脈診などだけで診断をする)で治療していた人もいました。

脈診は今、現在、この時の患者さんの心と身体の状態を如実に表すものです。舌診は逆に身体の大局的な陰陽のバランスを表します。ですから鍼をした直後の変化は舌には現れにくいですが脈には如実に表れます。反面、その日の天候や心理状態など様々なものが脈に表れるので脈が何を表しているのかを正確に把握することは難しい面もあります。

またすべての診断法の結果が一致するとは限らないということがあります。例えば問診と脈診の情報が一致しないことなどありますのですべての情報を総合的に判断することが必要となります。

10.「宮廷女官チャングムの誓い」の中で、冬虫夏草、ニンニク、ショウガ、ナツメなど、薬食同源に基づいた食材がたくさん登場します。第37話で食欲のない皇太后のためクミョンが作った五種粥が登場しますが、材料に桃、クルミ、松の実、ゴマ、杏を使っているそうです。これらはどのような健康効果があるのでしょうか?

また、これからの季節夏バテや冷房による冷え性などに悩む方も増えるのではないかと思います。夏バテ解消や冷房による冷え性解消などによい食材やおすすめのレシピがあったら教えてください。

桃の実を食べることによって胸を丈夫にし顔色をよくする働きがあります。桃は肺の果ともいわれ肺をよくする働きなどがあります。

クルミは肌を潤し髪を黒くする働きがあります。また足腰を丈夫にする働き、肺をよくし便通をよくする働きなどもあります。

松の実は関節の痛みを取り、五臓や皮膚を潤し、胃腸を温めます。また長く服すと身体を軽くし老化を防ぐ働きなどもあります。

ゴマは五臓を潤して養い、気力を益し、脳髄を填たし、耳や目にもよく、長く服すと身体を軽くし老化を防ぐ働きなどがあります。

杏の実は日に曝して干したものを食べると、渇きを止め、熱毒をとる働きがあります。また心の果ともいわれ、心臓をよくする働きがあります。

ですから、五種粥は基本的に補う働きのある食べ物が多く使われ、老人などにはとても良いものだと思います。

私は料理は苦手なのでレシピはわかりませんが、夏バテ解消にはスイカ・キュウリなど解暑作用のある瓜類や滋陰作用のあるクコ、ゴマ、黒豆などを摂ると良いと思います。

また冷房による冷え性にはまず冷房の冷たい風に直接当たらないようにすること。東洋医学では後頭部から上背部にかけての部分からカゼに罹るとするので首周りにスカーフなど巻くなどして特に気を付けて下さい。食べ物としては生姜、紫蘇、シナモン、ヨモギなどが良いと思います。

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