「院長の独り言」年度別

「院長の独り言」を時系列でご紹介しています。鍼灸・東洋医学に対してもっと身近に感じていただこうと、一般の方にわかりやすく鍼灸・東洋医学にまつわるトピックを中心にお届けします。民間薬草や健康食材にまつわる話、鍼灸・東洋医学・健康に関する一般書などもあわせてご紹介いたします。

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2011年1月~6月の「院長の独り言」

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『黒い牛乳』(中洞正著、幻冬舎)(2011年6月)

黒い牛乳 (経営者新書)』は「山地酪農」について書かれた本です。

本書の「黒い牛乳」というタイトルはセンセーショナルですが現在の問題のある日本酪農により作られる牛乳が本当に健康な白い牛乳なのか?という問いかけではないでしょうか。

現在多くの牧場では牛は一頭当たり一坪にも満たないスペースにつながれ、栄養価の高い穀物飼料を食べさせられて、より多くのお乳が出るようにしむけられているミルク製造機械のようになっていて、そのほとんどの牛がその一生を牛舎で暮らすというものです。

これが本当に健康な在り方なのか?

牛は本来人間などが消化できない草を消化吸収できるように胃が4つある。

それが草を食べずに穀物飼料に偏った牛は第4胃変異の病気にかかったり、第1胃が酸性化して消化不良を引き起こすなどの問題が多発しその為薬剤が使われています。

このような要因として牛乳があまりにも工業製品のように大量生産の枠組みで生産されている面があります。

広い牧場の草原でゆったり牧草を食べる牛の乳では搾取量が少なく生産効率が悪いし、本当においしい牛乳ということであればガラス瓶のほうが美味しいが製造コストも安く扱いやすい紙パックが使われていたり、殺菌の方法も本来は低温保持殺菌法(63~65度で30分殺菌、加熱臭がなく生乳に近い豊かな風味)のほうが美味しいのに大量生産に向かないので多くは超高温短時間殺菌法(120~135度の高温で1~3秒の殺菌法、大量生産に向いている、賞味期限が長くなる、加熱臭が出る)が用いられている。

また消費者の側にも濃い牛乳が美味しいということで不自然な牛乳を要望している面があったりします。

自然の中で草を食んで生きている牛が作り出す生乳の乳脂肪分は本来3.0~3.5%程度。

夏場水分の多い青草を餌にしている期間は乳脂肪分は低く、乾草が主体となる冬場には乳脂肪分が増加する。一年中3.5%以上の成分無調整の牛乳が販売されるのは輸入穀物飼料を主体にした牛舎飼いという飼育方法なしには成立しないのです。

有機栽培や無農薬の野菜・米が話題になっているなか酪農もそのような自然な在り方ができないのか?

そこで山地酪農という方法が本書で示されています。

基本的に牛に草を食べさせる放牧酪農で搾乳のときだけ牛舎に牛が来るというもので、日本には広大な面積の山林があり年々山林の荒廃が進んでいます。その山林に牛を放ち下草を放牧した牛に食べさすと同時に下草刈りをさすというもので山林の荒廃も同時に防げるというものです。

詳しくは本書を読まれると良いと思いますが、個人的には健康というものを扱っている身として、健康とはどうあらねばならないのか、社会や自然と不可分である個人の健康の在り方についてあらためて考えさせられました。

小説『許浚(ホジュン)』(李 恩成著、朴 菖煕訳、桐原書店)(2011年5月)

今回は小説『許浚(ホジュン)』の紹介です。

イ・ビョンフンさん演出のテレビドラマ、『宮廷女官チャングムの誓い』や『ホジュン 宮廷医官への道』は私も大変面白く観ました。(ちなみに、イ・ビョンフンさん演出の『イ・サン』がNHK総合テレビで毎週日曜午後11時より放送されています。)

ドラマ『ホジュン 宮廷医官への道』の原作が、『小説 東医宝鑑』で、日本では『許浚〈上〉医の道に辿りつく』、『許浚〈下〉心医の域に達する』として出版されています。

原作者の李恩成さんはシナリオライターで、1976年に許浚を描いた『執念』というテレビドラマがヒットし、そのシナリオを基に小説を書きましたが残念ながら急逝し小説は未完のまま終わっています。

テレビドラマと設定やストーリーなどで幾つか異なる点がありますが、ホジュンが東洋医学に邁進する姿はテレビドラマと同じように小説でも堪能できます。

小説は未完のままで終わっていますが、もし最後まで書かれていたらどんな結末だったのでしょうか?

もし小説が最後まで書かれていたらテレビドラマの結末も変わっていたかもしれませんね。

文庫版として『ホジュン 上』、『ホジュン 中』、『ホジュン 下』(ランダムハウス講談社)があります。

「東北地方太平洋沖地震」に思う(2011年4月)

3月11日に発生した 「東北地方太平洋沖地震」 にて、被災されました皆様、またそのご家族、関係者の皆様に、心よりお見舞い申し上げると共に、一日も早い復旧をお祈り申し上げます。

当院、太玄堂鍼灸院においても東北出身の患者さんや被災後札幌に避難されている患者さんがいて、本当に今回の地震の影響はあまりにひどく、被災地の方々のことを思うと私も心を痛めております。

被災者の方々におかれましては多くの肉体的、精神的ストレスがかかり、健康面で様々な問題が発生することがあると思います。

例えば、3日間以上自動車で寝起きした中高年者の方に、肺塞栓症(エコノミークラス症候詳)が起こる可能性がありますし、そうでなくても慣れない避難所での生活でのストレスで風邪や不眠など様々な身体の不調が生じることがあります。

特に高齢者においては持病や認知症などが悪化することもあります。

鍼灸は気血を巡らせ、ストレスをとる働きがありますし、様々な身体の不調に有効性があります。

大変だとは思いますが、多くの鍼灸師の方々に立ちあがって頂き、鍼灸が少しでも被災者の方々のお役にたてればと願います。

伝統医学思想の枠組みを考える(2)(2011年3月)

今回も前回に引き続き伝統医学思想の枠組みを考えてみたいと思います。

枠組みの2つ目は「体のアンバランスが病気である。だから体のバランスを整えるのが治療である。」というものです。

中国医学では五臓六腑や経絡のバランス、日本漢方的には気・血・水のバランスを考えます。インド医学ではヴァータ・ピッタ・カパのバランス、チベット医学ではルン・ティーパ・ペーケンのバランス、ギリシヤ医学では血液・粘液・黄胆汁・黒胆汁のバランスをみます。

体においてバランスが重要という考え方は現代医学の中にもあって、自律神経やホルモンや免疫機能などはバランスが取れていないと体のホメオスターシス(恒常性)が維持できないとされています。

枠組みの3つ目は「生命の力を重視する。」というものです。

ギリシヤ医学では自然治癒力が最大限に発揮されるようにすることが治療の上で重要だとしています。

中国医学では、元気・正気・真気など色々な呼び名がありますが要するに気が不足していると病気になり気が十二分にある状態だと健康であるとしています。

ちなみに中国医学の気に相当するものはインド医学ではプラーナ、チベット医学ではソク・ルン、ギリシア医学ではプネウマが相当します。

現代医学においてはこの「生命の力を重視する。」という考えは理念としてはあっても具体的な手段としては無いように思います。

「生命の力を重視する。」というのはある意味、「生命の尊厳」につながるのではないでしょうか。

終末医療におけるスパゲッテイ症候群やQOLの問題など現代医学における様々な問題が生命倫理・医療倫理の分野から指摘されています。

伝統医学思想における枠組みは次の3つです。

  1. 体の中に悪いものが存在するため病気になる。だから体の中から悪いものを無くすのが治療である。
  2. 体のアンバランスが病気である。だから体のバランスを整えるのが治療である。
  3. 生命の力を重視する。

これらはそれぞれ独立して理論を形成している場合もあれば、それぞれが組み合わさって理論を形成している場合もあります。

例えば鍼灸でいえば、

1の考えの治療は、刺絡治療やツボや経絡を考えずコリを取ることを主体とした治療などが入ると思います。2の考えの治療は五臓六腑や経絡を主要な目標とした治療だと思います。3の考えの治療は例えば澤田流太極療法などはこの考えに基づいていると思います。万人に共通の基本配穴をまず行い生命の力・三焦の元気を高める、これが澤田流の基本的な考え方です。

この3つの考えが組み合わさって出来たのが「証」という概念だと思います。

1の部分は実(邪実)として捉え寫法を行い、3の部分は虚(正気の虚)として捉え補法を行います。

そしてその実や虚が何処にあるのかということで、2の五臓六腑や経絡のバランスという概念を使います。

幅広く伝統医学を学びそしてそこから鍼灸を見直してみると、改めて鍼灸医学を再認識し実感できるように思います。

伝統医学思想の枠組みを考える(1)(2011年2月)

中国、インド、ギリシャなどの伝統医学、もちろんそれぞれ異なる文化的背景を持つもので独自のものですが、それらに共通する見方・考え方の枠組みは何かということを今回は考えてみます。

伝統医学に共通する見方・考え方の枠組み、それを一言では言い表せませんが、大きく分けると3つあると思います。

1つは、「体の中に悪いものが存在するため病気になる。だから体の中から悪いものを無くすのが治療である。」というもの。

中国医学ではこの悪いものを邪といいます。
具体的に細かく分けると、オ血、気滞、寒邪、風邪、燥邪、湿邪、暑邪などいろいろあります。

中国医学の古典『傷寒論』は極論すれば、風寒の邪に侵襲された体から汗・吐・下(大便・小便)などの方法を用いて邪を体から無くす方法が書かれた本ともいえます。

汗・吐・下などの方法はインド医学でも重要視されます。
インド医学ではマラ(老廃物)を大便や小便や汗などできちんと排泄しないと病気になるとし、パンチャ・カルマといって様々な浄化法があります。

面白いのは、五臓六腑的にいうと中国医学は五臓を重視しますが、インド医学では六腑を重視するというところでしょうか。

インド医学では消化の火(アグニ)できちっと消化されないことによりアーマといういわば燃えカスが生じこれが重要な病気の原因の一つであるとされます。
そのためインド医学では辛い香辛料で消化の火(アグニ)を高めるのです。

中国医学でも食積や湿痰、日本漢方的には水毒というふうに不消化物も視野には入れていますがインド医学のほうがより重要視しています。

ギリシャ医学においても悪性体液を痰・鼻水・膿汁・汗・尿・大便などで対外に排出することが重要です。
吐剤や利尿剤などの他に下剤や浣腸剤を重視しています。

中国医学、インド医学、ギリシャ医学、いずれも「体の中にある悪いものを無くす」という意味では共通の枠組み・構造をもっています。

ただその対象となる悪いものがギリシャ医学ではより物質的であり、中国医学ではより非物質・概念的であり、インド医学ではその中間のような気がします。

また説明はしませんが、鬼神病理論もこの枠組みに入ると思います。

この思想の枠組みは伝統医学だけでなく現代医学にもあります。
病理細胞を手術により取り除くことや、細菌・ウイルスを体から無くすことは、悪いものの対象が伝統医学とは異なりますが同じ思想の枠組みといえます。

他の2つの枠組みは次回説明します。

2011年新年のご挨拶 ~気~(2011年年始)

すべてのものは気から出来ている

清んだものは天となり、濁ったものは地となる

見えるものも(物質)見えないものも(非物質)すべて気から出来ている

すべてのものは気

気は玄妙な宇宙の働き

その働きを2つに分けたり(陰陽)5つに分けたり(五行)

すべての働きは気

すべては気

本年も初心に帰り邁進していきたいと思います。

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