「院長の独り言」年度別

「院長の独り言」を時系列でご紹介しています。鍼灸・東洋医学に対してもっと身近に感じていただこうと、一般の方にわかりやすく鍼灸・東洋医学にまつわるトピックを中心にお届けします。民間薬草や健康食材にまつわる話、鍼灸・東洋医学・健康に関する一般書などもあわせてご紹介いたします。

「院長の独り言」年度別

2020年1月~6月の「院長の独り言」

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『鍼灸学釈難』(李鼎著、浅野周訳、源草社)(2020年6月)

本書『鍼灸学釈難』は今から20年ほど前、私が鍼灸学校を卒業してすぐの頃に買った本です。
本棚から久し振りに出してみました。

著者は上海中医薬大学の鍼灸の教授で、この本は鍼灸の学生向けに書かれた本です。
東洋医学を学ぶうえで鍼灸の学生が疑問に思うようなことに対して解説されています。

例えば、 奇経八脈は八脈交会穴を循行していないのに何故そこが交会穴なのか?
十二経別と十二絡脈はどう違うのか?
足太陰脾経には足太陰の絡が記載されているのに何故脾の大絡があるのか?
是動病、所生病とは何か、これについてどういう解釈があるのか?
どうして同名穴はあるのか、同名穴どうしはどのような関係があるのか?
風池、風府、風門の治療作用はどう違うのか?
など108の問いに答えています。

東洋医学の疑問に答えてくれる鍼灸の学生向けの良書の一つだと思います。
私も買った当初は夢中で読みました、興味のある方にはおすすめの一冊です。

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COVID-19(新型コロナウイルス)感染症について(2020年5月)

当院に来られている患者さんからCOVID-19(新型コロナウイルス)感染症の漢方治療についての論文が日本感染症学会のホームページに掲載されていると教えて頂きました。

『COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方』(金沢大学附属病院漢方医学科 小川恵子)で『中国新型コロナウイルス診療ガイドライン』を基に筆者の見解も含めて書かれています。

簡単に概要をいうと、予防期(無症状病原体保有者)、軽症期(症状が軽く、画像で肺炎症状がでていない)、普通期(発熱や呼吸器症状があり、画像で肺炎が描出されている)、重症期(頻呼吸or血中酸素飽和度の低下or肺炎病巣の急激な進行)、重篤期(呼吸減弱で人工呼吸器が必要orショックを起こしているorその他の臓器不全を併発しICUでの治療が必要)に分け、それぞれに応じた漢方薬が提示されています。

詳しくは論文を見て頂けたらと思いますが、そのなかの一つ清肺排毒湯は軽症から重症の患者に幅広く使えます。
日本の場合は中国と異なりエキス剤が中心となりますので、論文では一番近いエキス剤の組み合わせとして、麻杏甘石湯+胃苓湯+小柴胡湯加桔梗石膏を提示しています。
ちなみに麻杏甘石湯は肺の熱邪をとる漢方、胃苓湯は湿邪によって脾胃がうまく働かないときに使う漢方、小柴胡湯加桔梗石膏は少陽や肺の清熱に働く漢方です。

中国での報告では西洋医学だけの治療群よりも東洋医学も合わせて治療したグループの方が有意に治療効果があったそうです。

もう一つ、はりきゅうあんまマッサージの業界誌である『医道の日本 5月号』において中国鍼灸学会の『COVID-19のための鍼灸介入ガイドライン(第2版)』の日本語訳が載っていました。
こちらも簡単に紹介しますと、医学観察期の鍼灸介入(疑い例)、臨床治療期の鍼灸介入(確定例)、回復期の鍼灸介入の3つに分けて書かれて、主なツボだけ紹介します。
こちらも詳細及びその他のツボなどに関しては『医道の日本 5月号』をご覧ください。

医学観察期の鍼灸介入(疑い例)は①風門、肺兪、脾兪②合谷、曲池、尺沢、魚際③気海、足三里、三陰交
臨床治療期の鍼灸介入(確定例)は①合谷、太衝、天突、尺沢、孔最、足三里、三陰交②大ジョ、風門、肺兪、心兪、膈兪③中府、ダン中、気海、関元、中カン 回復期の鍼灸介入は内関、足三里、中カン、天枢、気海

こちらも西洋医学の治療を行っている中で、感染予防の対策をきちんとしたうえで鍼灸治療も参加するというものです。

もう一つ『医道の日本 5月号』に池田先生がCOVID-19(新型コロナウイルス)感染症が疑われるような患者に対して小青竜湯加石膏で寛解した旨の話が載っていました。

日本において私達鍼灸師が治療院で実際にCOVID-19(新型コロナウイルス)感染症の患者さんを治療することは、まずありませんが、何かの参考になればと思います。

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唾と涎(2020年4月)

東洋医学には五行の色体表というのが有ります。
いろんなものを五行に分けているのですが、その中に五液というのがあります。
出典は『素問』の「宣明五気篇」で心は汗(あせ)、肺は涕(はなみず)、肝は泪(なみだ)、脾は涎(よだれ)、腎は唾(つば)となっています。

唾と涎の違いはずっと気になっていました。
唾も涎も唾液のことで同じものなのに、何で分けているのか?
唾をとばすときなど口をすぼめると口先に唾液がより多く出ますが、唾液の出る場所なのか。
(唾液腺には耳下腺、顎下腺、舌下腺などがあります)
唾液の性質には漿液(しょうえき)性と粘液(ねんえき)性がありますが、唾液の性質なのか。
明確な違いは分からないままでした。
臨床上は、唾も涎も区別せずに唾液として捉えその他の症候などから脾か腎かを判別するのが一般的です。
(唾と涎の違いが分からなくても臨床上はそんなに困らないということです)

先日たまたま張明澄の『五行別食事療法』を読んだら面白いことが書いてありました。
(張明澄の東洋医学は個人的には合わないと思うところが多いので、これまでちゃんと読んではなかったのですが)
唾を痰と解釈していました。
慌てて漢和辞典で久しぶりに唾を調べてみたら、やっぱり「つば」なのですが、用例に「唾壺」というのがあって、これが「たんつぼ」のことなんです。
そうすると唾を痰と解釈することもあながち間違いではない。

張明澄は腎は痰というのはおかしい、間違いだとして、五液を肝は泪、脾は涎、肺は涕・汗・唾(痰)、心は血、腎は尿と彼独自に分類しなおしてます。
その分類の是非はともかく、 中医学的にはよく「脾は生痰の源、肺は貯痰の器」と言われるように痰は脾や肺と深い関係があります。
西洋医学的にも、病理産物としての痰は気道、呼吸器に発生するので東洋医学の五臓の中では肺と関係が深いです。
なので、張明澄が痰を肺に分類しなおしていることも理解できるのですが、もっと大きく考えると東洋医学的には痰を客出される病理産物としての痰だけでなく、体の中の水の停滞したものも痰として考えます。
東洋医学では腎は水と関係が深いので、唾つまり痰が腎だと考えることもできます。

まあ結局は唾と涎の違いが何なのか、はっきりとした答えが出たわけではありませんが、お笑い芸人のテツandトモではないですが、「なんでだろう、なんでだろう」と考えることが東洋医学においても大事なのではないかと思います。

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『井筒俊彦著作集9 東洋哲学』(中央公論社)(2020年3月)

本書は著者の講演や論文などを集めたものです。
著者は哲学者で東洋哲学、言語哲学など幅広く研究された方で、専門はイスラム古典哲学です。

個人的に面白かったのは、「コスモスとアンチコスモス」でした。
コスモスは秩序だったロゴスの世界、アンチコスモスは(著者はアンチコスモスと言葉を変えていますが)カオス、混沌のことです。
一般的に西洋は秩序だったコスモスの世界に対しては真善美を見出し愛し安心する対象で、無意味、非合理なカオス(アンチコスモス)に対しては恐怖や死を意識する嫌悪する対象です。

逆に東洋ではこのカオス、無こそ生命の根源、本当の実在だとする伝統的な文化があります。
老荘思想や仏教思想などでは、目の前にある現実といわれる秩序だった存在、コスモスが本当に確たる存在なのだろうか?
夢や幻のような、あやふやなものではないだろうかという視点を持っています。

ポストモダン、ポスト構造主義という現代哲学も、著者は同じような流れとして見ています。
デリダの解体のように、その存在が本当にそうなのだろうか?と秩序だったコスモスの世界の構造を一度解体して考えてみる。
あるいは固定化されたコスモスの秩序、構造を一度破壊して、新たな構造を組みなおしてみることも大事なのではないか。
閉塞した現代において、それを打開する方法の一つとしてデリダのようなポスト構造主義が存在する。
それは東洋思想というものが現代に存在する意義を持っているということでもあります。

個人的にはその他に、「理事無礙」から「事事無礙」という仏教の華厳哲学の表現を用いて、イスラム哲学のイブヌ・ル・アラビーの哲学を「理理無礙」から「事事無礙」に行く思想だと解説した部分なども面白かったです。

いづれにしても、東洋的なものの見方・考え方が、閉塞した現代を乗り越える為のツールとなりえる、そう改めて感じさせてくれた一冊でした。

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雨水(うすい)(2020年2月)

今年の2月19日は、二十四節気の一つ、雨水です。
太陽の黄経が330度の時で、「雪が雨に変わり、氷が溶け始めるころ」という意味で、大寒や立春の寒さのピークから春が夏に向けて一歩進んだということです。
二十四節気の一つ一つには、ある1日を表す日にちとしての意味と、次の節気までの期間としての意味があるので、次の二十四節気の啓蟄(R2年3月5日)までが雨水の期間となります。
ちなみに黄経330度とは、天球上を一年かけて太陽が通る黄道を、春分の日を0度として計算したものです。

話は変わりますが、現在流行している新型コロナウイルスですが、東洋医学では温病という概念になります。
ちなみにインフルエンザも温病として考えられます。
西洋医学のカゼなどの感染症は東洋医学では外感病といいます。
外感病は大きくは傷寒病と温病の2つに分かれ、傷寒病は寒邪が温病は熱邪が中心です。
この時期に発病する温病は、風温や春温となります。

いずれにしても温病は熱邪が中心となりますので清熱の治療が中心となります。
刺絡治療であれば手足の井穴や百会などのツボに刺絡しますし、鍼であれば気分の熱か血分の熱か内臓の弱りは無いかなどきめ細やかに弁別してそれに応じたツボで治療します。
(漢方も鍼同様きめ細やかに弁別してそれに応じた漢方薬で治療します。)

東洋医学的にはこのような対応となりますが、このような高い伝染性の病は発症した場合は一義的に西洋医学の適応となりますので、当然ですが迷わず西洋医学の病院に行くべきです。
ちなみに、東洋医学的な予防としては正気(元気)を高めて免疫力をアップするのが基本となりますが、体質的に熱タイプの方や肝腎など内臓に弱りのある方は重症化しやすいのでその治療も併せて行います。
一応ご参考のために。

■参考文献:『中医臨床のための温病学』(医歯薬出版株式会社)
『基礎中医学』(燎原書店)

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2020年年始のご挨拶 ~接触鍼のレベルアップを目指す~(2020年1月)

あけましておめでとうございます。

本年も無事にお正月を迎えることができました。

これもひとえに太玄堂鍼灸院を応援してくださる家族、友人そして患者の皆様のお蔭だと思っております。

少しでも皆様方にお返しができるよう本年も精進したいと思っています。

また皆様にとって本年も良い年でありますよう、心よりお祈りいたします。

今年は小児鍼などの接触鍼のより一層のレベルアップを目指したいと思っています。

2020年1月1日 太玄堂鍼灸院 福田毅

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