「院長の独り言」年度別
2020年7月~12月の「院長の独り言」
- 『放射線像 放射能を可視化する』(森敏・加賀谷雅道著、皓星社)(2020年12月)
- 『メディカルハーブ LESSON』(佐々木薫監修、河出書房新社)(2020年11月)
- 柿(2020年10月)
- 『趣味の園芸 万葉の花「キキョウ」』(2020年9月)
- 「月間『医道の日本』定期刊行休止」に思う(2020年8月)
- 『臓腑経絡学』(藤本連風、奥村裕一、油谷直著、アルテミシア)(2020年7月)
『放射線像 放射能を可視化する』(森敏・加賀谷雅道著、皓星社)(2020年12月)
本書『放射線像 放射能を可視化する』はオートラジオグラフィー(放射線写真法)という、分布している放射性物質から放出されるベータ線粒子やガンマ線から画像を作成する手法で、福島第一原発事故で汚染された動植物から日用生活品など60点余りを掲載した写真集です。
2015年に出版されたもので、現在の状況とはもちろん異なってはいるでしょうが、改めて原発問題、放射能汚染問題というものを、考えさせられました。
私が個人的に興味深かったのは、ネズミを撮影すると腎臓と胆のうが濃く写った、というものでした。
つまり、腎臓と胆のうが放射線量が高かったということです。
何故、腎臓と胆のうに放射線量が高かったのか?
ネズミと人間で種は異なるが人間でも腎臓と胆のうの放射線量が高いのか?
答えは分かりませんが、東洋医学的には胆のうの働きは①胆汁の貯蔵と排泄②決断を主る(物事を正しく判断する働き)と二つの働きがあるとされています。
ちなみに生薬に熊胆というのがあります。
熊の胆汁を乾燥させたもので、強い清熱解毒の働きがあります。
極論すれば胆のうには清熱解毒の働きがあるとも言えます。
腎臓の東洋医学的働きは①成長と発育と生殖②水を主る③納気を主る④生髄充脳化血⑤各臓腑をナン養温煦など、いろいろありますが元気の大本の働きがあり、各臓腑のバックアップをする縁の下の力持ちです。
これはあくまで私の個人的な推論ですが、放射線汚染により、それを解毒するために胆のうと腎臓が大いに働き、疲労し、その結果として腎臓と胆のうに放射線量が高くなったということではないでしょうか。
放射線障害の治療をするときの参考になるかもしれないと思いました。
『メディカルハーブ LESSON』(佐々木薫監修、河出書房新社)(2020年11月)
『基礎からよくわかる メディカルハーブLesson』という本でタイトルのメディカルハーブとは、健康維持のためにハーブを使用する分野のことだそうです。
ハーブにはビタミン、ミネラル、アルカロイド(精神安定・興奮)、フラボノイド(発汗・利尿・抗アレルギー)、タンニン(抗酸化・収れん)、精油(防虫・抗菌)、苦味質(健胃・強肝)、粘液質(粘膜保護・熱の保持)など有用な植物化学成分が含まれています。
本書では、セージ、ジャーマンカモミールなど普段よく使われる33種類のハーブが載っており、それぞれの作用が書かれています。残念ながら東洋医学的な薬効は分からないものが多いのですが、その中でいくつか手元の資料で分かるものが有ったので、比較して紹介したいと思います。
バードックルート(ごぼう)
西洋では日本のように食材として食べる習慣がなくハーブとして古くから用いられたそうです。
ハーブとしての主な作用は、緩下、消化機能促進、利尿など。
東洋医学的なゴボウの主な作用は、肝鬱鎮火、補腎強壮、去痰など、性味は甘、辛、平。
漢方薬として使う場合は牛蒡子といいますが根でなく実を使います。
牛蒡子:性味辛、苦、寒。帰経:肺、胃。主な作用は、疏散風熱、利咽散結、去痰止咳、宣肺透疹、解毒消腫。
根と実の違いもあるのでしょうが、西洋のハーブとしての使い方と東洋医学での使い方では違いもあります。
西洋ハーブとしてはむくみ、食べ過ぎ、肌のトラブルなどに用いられることが多く、で東洋医学的には熱性のカゼ、のどの痛み、咳止め、化膿性の皮膚炎、麻疹などに用いられることが多い。
もちろん東洋医学でもゴボウの緩下、利尿作用は分かっていて、例えば脾虚などで水様便~泥状便の人には使用してはいけないなどの使用上の注意としての認識のようです。
ダンディライオン(西洋タンポポ)
主な作用は、緩下、強肝、催乳、利胆。
通常は根を用いますが葉を用いることもあります。
東洋医学的には蒲公英、ホコウエイと呼びます。根を付けた全草を用いますが根だけ用いる場合もあります。
性味:苦、甘、寒。帰経:肝、胃。
主な作用は清熱解毒、清腫散結、利水通淋、清利湿熱、清肝明目。
西洋ハーブとしては肝臓や胆のうの不調、便秘、消化不良、リウマチなどに用いられることが多く、東洋医学的には化膿性疾患、目の充血・腫れ、尿道炎などなどに用いられることが多い。
西洋のハーブとしての使い方と東洋医学での使い方において、異なった使われ方をする場合があるというのはとても面白く感じました。
同じ植物でも異なった作用の部分に着目しているということかもしれませんね。
柿(2020年10月)
秋は果物のおいしい季節ですね。
そんな秋の味覚の中で今回は柿について少し述べてみたいと思います。
柿を東洋医学的に見てみますと、
柿
性味:甘、渋、寒。
帰経:肝、胃。
主治:清熱生津(熱をとり潤いを生む)、潤肺止咳(肺を潤し咳を止める)。
薬膳例:口の渇き、口内炎、咳嗽に柿2個の皮をむいて食べる。高血圧、口内炎に未熟の柿の汁を絞って、おもゆで調合して飲む。
薬膳では柿の実をよく用いますが、漢方薬では柿の実よりも、柿蔕(柿のヘタ)や柿霜(干し柿の表面にできる白い霜状のもの)を用います。
柿蔕(柿のヘタ)と柿霜(干し柿の表面にできる白い霜状のもの)を東洋医学的に見てみますと、
柿蔕
性味:苦、渋、平。
帰経:胃。
主治:降気止涼
※柿蔕は、吃逆(しやっくり)によく使われる生薬です。
柿霜
性味:甘、涼。
帰経:肺、胃。
主治:清熱生津、潤肺止咳。
※柿霜は喉痛、口内炎、咳嗽などに使われます。
柿も実だけでなく、色んな部位が使われるのが面白いですね。
■参考文献:
『薬膳』(伍 鋭敏編著、東京書籍)
『中医臨床のための中薬学』(神戸中医学研究会、医歯薬出版株式会社)
『趣味の園芸 万葉の花「キキョウ」』(2020年9月)
NHKで『趣味の園芸 万葉の花』という番組が放送されていますが、たまたま見た「キキョウ」の回が面白かったです。
万葉集の歌の中に、「朝顔は 朝露負いて 咲くといへど 夕影にこそ 咲きまさりけれ」作者未詳(巻10・2104)というのがあります。
この歌の中の朝顔は今私達が頭に思い描くアサガオとは違う花なのだそうです。
現在私達が知るアサガオは、平安時代の初めに薬草として中国から日本に伝わったものです。
万葉集の頃は朝に美しく咲く花を種類を問わず朝顔と呼んだそうです。
ではこの歌に出てくる朝顔は何の花なのでしょうか?
ムクゲ、ヒルガオなど候補の花に関しては諸説あるそうですが、一番有力なのはキキョウだそうです。
キキョウは鑑賞用としても栽培されますが、薬草としても使われます。
ちなみにアサガオ、キキョウの東洋医学的な効能は、
牽牛子(ケンゴシ、アサガオの種子)性味:苦、寒。帰経:肺、腎、大腸。効能:行水通便、下気・消痰、殺虫消積。
桔梗(キキョウ、キキョウの根)性味:苦・辛、平。帰経:肺。効能:宣肺キョ痰、排膿消腫。
アサガオもキキョウもともに肺に働き、咳などの呼吸困難を改善します。
アサガオもキキョウも同じ呼び名だったことがあり、また効能も同じような効能があるということに、面白味を感じました。
「月間『医道の日本』定期刊行休止」に思う(2020年8月)
1938年の創刊以来、長らく鍼灸業界をけん引してきた月間『医道の日本』が2020年7月号をもって定期刊行休止になりました。
近年はWEB上での情報発信が増大し、紙媒体の雑誌の市場が縮小する中、鍼灸業界自体の変化も影響していると思います。
『医道の日本』は元々は柳谷素霊が立ち上げ、弟子の戸部宗一郎に託したものです。
明治以降西洋医学中心となり東洋医学が衰退するなか、東洋医学復興運動がおこります。
漢方薬は矢数道明、大塚敬節が中心となり、鍼灸は柳谷素霊が中心でした。
柳谷素霊は東洋鍼灸専門学校という鍼灸の学校も作っています。
そんな先人達の「想い」によって作られた『医道の日本』の定期刊行休止に一時代の終わりを告げているようで、一抹の寂しさを感じます。
が、
これは新たなスタートだとも言えると思います。
先人達の「想い」を、今を生きている私達、鍼灸師一人一人が受け継ぎ、伝え、体現していく。
そのような新たなスタートに、私達、鍼灸師一人一人がしていかなければならない、と思います。
『臓腑経絡学』(藤本連風、奥村裕一、油谷直著、アルテミシア)(2020年7月)
西洋医学において基礎となる学問は解剖学と生理学になります。
東洋医学において西洋医学の解剖学、生理学に相当する基礎的な学問が臓腑経絡学になります。
西洋医学の解剖学、生理学と東洋医学の臓腑経絡学は似ているようで大きく違います。
解剖学や生理学は内臓などの部分がどう働いているのか?
つまり部分に注視した学問です。
それに対して、東洋医学の臓腑経絡学は臓腑、経絡の変動によって身体がどのような表現をするのか?(これを蔵象といいます)
言わば臓腑、経絡の変動が身体全体にどのような影響を与えるのか?
つまり身体全体に注視した学問です。
臓腑は心、肺、脾、肝、腎の五臓と胃、胆、小腸、大腸、膀胱、三焦の六腑です。
経絡は正経十二経脈があり、その他に十二経別、十二経筋、十二皮部があり、奇経八脈があり、絡脈として十五絡、浮絡、孫絡があります。
非常に細かく分かれた精緻な体系です。
藤本先生の豊富な臨床経験と学問によって書かれた本書は深く東洋医学を学びたいと思っている鍼灸学校の学生さんにとって、必読の書だと思います。