「院長の独り言」年度別
2021年7月~12月の「院長の独り言」
- 『交通安全を語る仏さま』(釈 地縁著)(2021年12月)
- 経絡治療について(2021年11月)
- 『黄帝内経』について(2021年10月)
- ナツメ(2021年9月)
- 五臓六腑は皆 人をして咳せしむ。独り肺のみに非ざるなり。(2021年8月)
- 五臓と食べ物(腎の臓)(2021年7月)
『交通安全を語る仏さま』(釈 地縁著)(2021年12月)
本書『交通安全を語る仏さま』は北海道内の道路わきの仏さまについて書かれた本です。
本書は自費出版のため書店では買えませんが、図書館などに寄贈されているので取り寄せて借りることはできます。
北海道内179市町村で約300体の仏さまが道端で見守っておられ、そのうち170体ほどが交通事故者の慰霊や交通安全祈願のために建立されたものだそうです。
近年では道端から姿を消す仏さまも出てきていることから、今のうちに記録を残さなくてはというのが本書出版のきっかけのようです。
道路わきの仏さまには、聖観音菩薩、馬頭観音菩薩、不動明王、阿弥陀如来、薬師如来、弘法大師、女神さまなど様々ですが地蔵菩薩が最も多いそうです。
お地蔵さま(地蔵菩薩)は輪廻を繰り返す六道の全ての世界で人々を救うとされています。
また笠地蔵という昔ばなしもあるように他の仏さまより私達衆生により寄り添ったイメージがあります。
道端の仏さまにお地蔵さまが多いのにもうなずけますね。
経絡治療について(2021年11月)
鍼灸イコール東洋医学と一般には思われがちですが、実際は必ずしもそうではなくて西洋医学の見立てによって治療を行っている鍼灸師の先生方達もたくさんいます。
また東洋医学による見立てによって治療されている先生方でも、東洋医学には流派のようなものがあり、その流派によって治療方法が異なったりします。
東洋医学の流派で、大きなものは経絡治療と中医学ですが、 今回は経絡治療の成立過程について簡単に説明したいと思います。
経絡治療と聞くと経絡を調整する治療でかなり昔から行われているように思いますが、実際は昭和15年頃に柳谷先生の弟子の岡部、井上、竹山の三人の先生によって生み出されます。
その後普及活動を行い日本全国に広まります、これが現在の経絡治療学会へと繋がるメインの流れとなります。
この時に経絡治療のもう一つの大きな流れが出来ます。
福島弘道先生が入会を申し込んだところ福島先生は視覚障害があったので、それじゃあ視覚障害の方達の普及を任せた、教えに行くから会を組織して普及活動をしてくれということで、これが現在の東洋はり医学会になります。
(東洋はり医学会は現在は晴眼者の方達もたくさん入会されています)
東洋はり医学会は最初は経絡治療学会と全く同じ治療でしたが、後に相克調整、片方刺しなど独自の体系となっていきます。
メインの経絡治療の流れでは後に病因病理の理論を深化させなくてはならないという要望が生まれます。
漢方理論を取り入れて病因病理の理論を深化させる流れと、脈状診を取り入れて病因病理の理論を深化させる流れができます。
また東洋はり医学会の方でも漢方理論を取り入れて病因病理理論を深化させる流れが出てきて、それが漢方鍼医会へとなっていきます。
経絡治療と一言で言ってもその中でも細かく見るといろいろな流派があって、それぞれに特色があります。
『黄帝内経』について(2021年10月)
『黄帝内経』は東洋医学のバイブル的な存在で、『黄帝内経』の成立により東洋医学の理論の基本部分がほぼ出来上がります。
そんな『黄帝内経』ですが、文章の形式としては、黄帝が岐伯に質問してそれに対して岐伯が答える、というのが基本的な形式となります。
黄帝は中国、漢民族の祖先とされる神様で、岐伯は黄帝の侍医でもありますが、凄い名医、スーパードクターですね。
『黄帝内経』は『素問』と『霊枢』から成ります。
『素問』は81篇、『霊枢』も81篇です。
『素問』の81篇のうち62篇に黄帝と岐伯が出てきます。
『霊枢』の81篇のうち52篇に黄帝と岐伯が出てきます。
『素問』の76%、『霊枢』の64%、二つ合わせると『黄帝内経』の70%に黄帝と岐伯が出てきます。
ちなみに『素問』の他の篇には、鬼臾区が2篇、雷公が7篇、人物が登場しないのが11篇となります。
合計すると81を超えるのは、例えば岐伯と鬼臾区など重複して登場する場合があるからです。
『霊枢』の他の篇には、少師が4篇、伯高が10篇、少兪が4篇、雷公が3篇、人物が登場しないのが12篇となります。
山田慶兒先生は『黄帝内経』は様々な東洋医学の流派の論文集だ、というようなことをおっしゃってましたが、様々あるであろうその理由の一つに登場人物が複数いるということがあるかもしれません。
ナツメ(2021年9月)
今回はナツメ(棗)について、
中国には、「一日に3粒ナツメを食べると年を取らない」という言い伝えがあります。
サムゲタンなど料理に使われますが、漢方薬にも使われ、生薬名は大棗(タイソウ)といいます。
性味は甘、微温。
帰経は脾、胃、心、肝
効能は①補脾和胃②養営安心③緩和薬性
基本的には気を補う生薬になります。
栄養学的には、食物繊維 ビタミンB群 葉酸 カリウム 鉄分 リン カルシウムなどが豊富ですが、食べすぎるとお腹が張り便秘になったり、またカロリーが高いので、多くても20粒以内がお勧めです。
五臓六腑は皆 人をして咳せしむ。独り肺のみに非ざるなり。(2021年8月)
『黄帝内経』の『素問』の中に咳論篇というのがあります。
その中にこの「五臓六腑は皆 人をして咳せしむ。独り肺のみに非ざるなり。」という言葉があります。
咳は当然のことながら呼吸器疾患ですから、五臓六腑で言えば肺の臓になります。
逆に言えば、肺の臓が関係していないことは考えられ無いです。
だからといって咳=肺の臓とは限らないということです。
咳があるとついつい咳=肺の臓と短絡的に考えがちですが、例えばストレスが大きく関与してる咳の場合は肝の臓の関与も考えられますし、喘息などで病の経過が長い場合は腎の臓の関与も考えられます。
一つの症状から短絡的に考えてはいけない。
常に身体の全体像を考えなければならない。
「五臓六腑は皆 人をして咳せしむ。独り肺のみに非ざるなり。」
『黄帝内経』の『素問』が教えてくれている大事な宝物の一つだと思います。
■参考文献:
『黄帝内経素問 中』(石田秀美監訳、東洋学術出版社)
五臓と食べ物(腎の臓)(2021年7月)
今回は腎の臓に良い食べ物を紹介したいと思います。
一般的に腎の臓に良い食べ物とされている主なものは以下のものです。
クルミ、ゴマ、黒豆、大豆、人参、アスパラガス、山芋、冬瓜、ソラマメ、栗、ぶどう、きくらげ、蛤、フカひれ、スッポン、ナマコ、昆布、ワカメ、牡蠣
ちょっと専門的になりますが、同じ腎の臓でも、どの部分が悪いかによってより良い適した食べ物があります。
温陽補腎:クルミ、ニラ、羊肉、鶏肉、スズメ、エビ、ナマコ
【生薬】冬虫夏草、肉ジュウヨウ、杜仲、韮子、肉桂、小茴香
滋陰補腎:小麦、黒クワイ、豆腐、黒ゴマ、黒豆、卵、牛乳、豚肉、スッポン、アワビ、貝類
【生薬】石斛、黄精、枸杞子、桑椹、地黄
何かの参考にしてもらえればと思います。
■参考文献:
『薬膳教本』(岡本清孝著、柴田書店イータリンク)
『中医薬膳学』(辰巳洋著、東洋学術出版社)