「院長の独り言」年度別
2023年7月~12月の「院長の独り言」
老荘思想(2023年9月)
『老子』とその後の時代の『荘子』、その二つの思想を合わせて老荘思想といいます。
東洋思想の中でも私の好きなものの一つなのですが、実は日本文化に大きな影響を与えているのです。
老荘思想の日本への伝わりは一つは漢学(中国学)として。
特に江戸時代は官学として儒教が取り入れられました。
なので漢学の中心は儒教ですが、儒教以外も伝わっておりその中の一つとして老荘思想も伝わっています。
もう一つの流れは仏教を通して。
仏教はインドで釈迦によて生まれた宗教ですが、龍樹によって空を説いた大乗仏教が生まれ、その他にも唯識派や土俗の宗教を取り込んだ密教などが生まれます。
大乗仏教が中国に伝わるわけですが、そこで中国の思想とくに老荘思想と融合して新たな仏教、中国仏教が生まれます。
それが禅宗と浄土宗です。
禅宗は中国で大きく花が開きそれが日本にも伝わり、日本文化にも多大な影響を与えます。
浄土宗は中国よりも日本で大きく発展しました。
自然法爾は老荘思想とかなり近しい概念といえると思います。
老荘思想を説明するのは難しいのですが、一言でいうと、「無為自然」。
無為自然とは人間のさかしらな知恵を捨てて、大いなる自然の法則に沿った生き方をしようというものです。
ことさらに人間のさかしらな知恵を否定する禅宗、阿弥陀仏にすべてをゆだねる浄土宗、一見すると全く反対の宗派に思えますが、両方とも老荘思想の影響を受けているというのは面白いですね。
周易と老子(2023年8月)
私は鍼灸を業としているものですが、ライフワークとして東洋思想を学んでいます。
東洋思想は東洋医学のバックボーンでもありますので、東洋医学を学ぶ者はいづれ学ぶ必要があるのですが、鍼灸を抜きにしても面白いものです。
周易にしても老子にしても色々解釈の余地があり、個人的には私的に色々解釈をして楽しんでいます。
周易は面白いもので、儒教の重要な経典であり、儒教とは相反する老荘思想においても大事な経典となっています。
周易はもともとは占いですがそれを哲学まで高めたのが儒教になります。
あくまで私的な解釈ですが、生き方として周易を考えるならば、二つの道を示しているように思います。
一つは能動的に理性的に教え導き命令する父なる乾の道、もう一つは受動的に共感的に育て癒す母なる坤の道。
なので地天泰という上のものがへりくだって下のものと交流するある意味慈愛に満ちた卦があるかとおもえば、火雷噬ゴウのように邪魔なものは断固として排除する(獄を用いるに利し)非常に強権的な卦もあります。
この背反する二つの道を時と場合によって使い分け、全体としての調和を実現するのが周易の基本的な考え方だと思います。
老子は一言でいうと無為自然、人間のさかしらな考えを捨てて自然に沿った生き方をしようというものです。
あくまで私的な解釈ですが、先ほどの周易との関連でいえば、母なる坤の道こそが唯一の無為自然の道と老子は述べているように思います。
老子では儒教的なものを否定しますが、それは学ぶこと、規範を作ること、命令すること、いづれも父なる乾の道です。
老子が理想とするのは女性、水、赤子、小国寡民など柔弱なるもので、一見すると弱いものばかりですが、それがしなやかな強さを持ち、剛強なものに勝つといいます。
周易の母なる坤の道と老子の無為自然の道は全く同じとは言えないかもしれませんが、かなり近いものだと思います。
老子と周易、一見すると関連性が無いように思えても視点を変えてみればつながりが見えてくる、面白いですね。
温故知新(2023年7月)
温故知新とは「昔のことを研究して新しい知識や道理を知ること」ですが、伝統の知恵には宝物がたくさんあると思います。
もちろん鰯の頭も信心からではないですが、無批判に何でも信じると危険なこともあります。
宝物とゴミをきちんと区別する目を持たなくてはならないと思います。
TCH(Tooth Contacting Habit(歯列接触癖))という上下の歯を"持続的に" 接触させる癖があります。
上下の歯が接触する程度の力でも口を閉じる筋肉は働いてしまうため顎関節への負担が増え様々な不調を引き起こす原因になります。
解消法としては「歯を離す」と書いた付箋をテレビなどに貼り、歯を離す習慣付けを行うというものです。
その他に舌先を上の歯と上顎の間につけるというのがあります。
実はこれ舌砥上顎といって気功にもあります。
気功では督脈と任脈をつなげて気の流れをよくすると説明されます。
舌砥上顎のほかにも、立身中正、虚領頂頸など重要なものが気功にあります。
鎌田 實先生の著作などで書かれているかかと落とし体操も八段錦という気功体操のなかにあります。
背後七顛百病消というのものですが、腎を高めて万病を治すとされていますが、腎は東洋医学的には骨と関係がありますので骨粗しょう症予防に東洋医学的にも効果的だと思います。
伝統の知識を改めて見直すことも大事だと思います。