「院長の独り言」ジャンル別

「院長の独り言」をジャンル別でご紹介しています。鍼灸・東洋医学に対してもっと身近に感じていただこうと、一般の方にわかりやすく鍼灸・東洋医学にまつわるトピックを中心にお届けします。民間薬草や健康食材にまつわる話、鍼灸・東洋医学・健康に関する一般書などもあわせてご紹介いたします。

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「院長の独り言」ジャンル別~鍼灸・漢方・東洋医学・東洋思想・気功編

鍼灸・漢方・東洋医学・東洋思想・気功編 ―2011年-2013年―

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湧泉(2013年12月)

湧泉(ゆうせん)は足底にあるツボです。

天人地で分けた時、人の中で最も天に近いツボが百会だとしたら、もっとも地に近いツボがこの湧泉です。

泉の水が湧き出るように、五行の水に属する腎の経絡の気が初めて出る処なのでこの名がつきました。

湧泉には地衝や足心という別名もあります。

東洋医学的には「調腎気」、「利血脈」、「益腎滋陰」、「引火下行」、「平衝降逆」、「開竅啓閉」、「醒脳蘇厥」などの働きがあります。

具体的な症状としては、小児のひきつけ、てんかん、中風、人事不省、頭項痛、眩暈、耳鳴り、耳聾、舌本強、歯痛、小便不利、遺尿、水腫、遺精、不孕、心煩、心痛、心中熱、咳嗽、喀血、足膝冷痛、足心痛、奔豚気などがあります。

私の師匠が厥症(人事不省)のとき湧泉のツボを揉むのも救急の場合の方法のひとつと言っていました。

参考文献:『百穴精解』天津科学技術出版社

百穴精解湧泉

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百会(2013年11月)

百会(ひゃくえ)というツボがあります。

百会は頭頂にあるツボで、「百」は「もろもろ」 、「会」は「あう」で、「もろもろのものが会うところ」が名前の意味となります。

具体的には手足の三陽経脈、督脈、足厥陰脈の交わるところです。

ちなみに百会には三陽五会、頂上、巓上、維会、五会、天満、三陽、白会などの別名もあります。

百会は東洋医学的には「活血通絡止痛」、「昇陽益気」、「熄風潜陽」、「キョ風散邪」、「醒脳」、「通督解痙」などの働きがあります。

百会は名前からも重要なツボだということが分かりますね。

実は、犬、猫、牛、馬などの動物にも経絡があり、百会というツボがあります。

動物の場合は人間の場合とは違い、腰のあたりに百会のツボがあります。

私の師匠は、冗談交じりに「本能」と「煩悩」の違いだと言っていましたが、進化によって脳が大きく発達した人間とその他の動物との相違ということでしょう。

動物の経絡が研究されていることも面白いですが、人間にも動物にも百会という同じ名前のツボがあり、しかもそれが異なる場所にあるというのも面白いですね。

百会

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『ガイアの夜明け』を観て、伝統の素晴らしさを思う(2013年10月)

10月8日放送の『ガイアの夜明け』を観ました。

毎週この番組を観ているわけではないのですが、今回は「世界が絶賛!職人が生んだ驚きの新商品」というタイトルで、鍼灸という日本の伝統文化・技術を学んでいる者として興味深く拝見しました。

番組の内容としては、古くから伝わる伝統工芸が日本各地にたくさんありますが、現代において大変厳しい状況の産業も多々あります。そんな中伝統の技術を生かし頑張っている職人たちがいるという話です。

紹介されていたのは、初めは滋賀県大津市の桶職人中川周士さん(「中川木工芸比良工房」)。高級シャンパンの「ドン・ぺリニヨン」が絶賛した結露ができにくい木製のシャンパンクーラー

次に福井県越前市の刃物工場「龍泉刃物」のすごい切れ味のステーキナイフ。 最後は石川県七尾市の「天池合繊」という会社の「天女の羽衣」という絹の4分の1の軽さで、髪の毛のおよそ6分の1の細さの糸で作った生地。

どれも素晴らしいものでしたが、それぞれの製品が生まれた背景に伝統の技術があったからこそということに感動しました。

やはり、伝統は素晴らしい。

翻って、我々鍼灸も東洋医学という伝統によって生まれました。

現代医学的な鍼灸をされる先生もいますが、五臓六腑・経絡という身体のバランスを整える鍼灸というのが、本来の鍼灸、東洋医学の鍼灸だと思います。

東洋医学というと一般の方は漢方薬を先ず思い浮かべられるでしょうが、東洋医学のもうひとつの大きな柱である鍼灸をもっと知ってもらい、もっと活用してもらいたいと番組を観て改めて思いました。

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梅(2013年6月)

平岡公園の梅ソフト先日、札幌の平岡公園に梅を見に行きました。

平岡公園の名物の梅ソフトを食べましたが美味しかったです。

ちなみに漢方薬でも梅を使います。

烏梅(ウバイ)と言い、未成熟の梅の実を燻蒸したもの生薬として使います。

・烏梅の性味は酸、渋、平。

・帰経は肝、脾、肺、大腸。

・効能は慢性の咳、慢性の下痢、回虫による腹痛、下血、血尿、性器出血、のどの渇きなどに効きます。

烏梅は漢方薬ですがわれわれ日本人は梅を梅干しという食品として摂っています。

梅干にも次のような効能があると言われています。

・唾液の分泌を促して消化吸収を良くする効果

・疲労回復の効果

・血糖値の上昇を抑える効果

・便秘の解消を助ける効果

・肝機能を高めることによって酔いを防止する効果

・解熱効果

・抗菌・防腐効果

観ても美しい梅ですが、食べても美味しく、しかも体にも良いとは、梅は素晴らしいですね。

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「アイスマン ~5000年前の男は語る~」(2013年5月)

2013年4月13日(土) 夜11時(再放送2013年4月20日(土)午前0時45分)放送されたNHK「ETV特集 アイスマン ~5000年前の男は語る~」を観られたでしょうか?

内容は1991年にアルプスの氷河から発見された世界最古の冷凍ミイラであるアイスマン。このアイスマンを完全解凍して最新の医療技術を駆使して体内からサンプルを採取・分析するという画期的な調査についてでした。

胃の内容物から5千年前のアイスマンが小麦粉を練って焼いたパンらしきものを食べたり、ハーブなども食事に使用した意外と豊かな食生活を送っていたということや、傷痕などからアイスマンが実は何者かによって殺されたということまで分かりました。

個人的に面白かったのは、アイスマンの体にいくつかある刺青の痕でした。

通常の刺青と違い服に隠れる外から見えない位置にありました。

この刺青の位置が実は腰痛に使われるツボの位置に彫られており、事実レントゲンでこのアイスマンが腰椎すべり症であることが判明しました。

5千年前はまだ中国文明が発生する前であり、しかも中国から遥か遠くに離れたヨーロッパのアルプスに鍼治療があったということは驚くべき事実です。

薬草治療は古代から普遍的に世界中にあったのに何故鍼治療は中国だけなのか?と思っていましたが、もしかしたら鍼治療も古代において普遍的に世界中にあった治療法だったかも知れませんね。

「NHKスペシャル 完全解凍!アイスマン ~5000年前の男は語る~」からの引用抜粋

“アイスマン”は1991年にイタリア・オーストリア国境付近にあるアルプスの氷河から発見された世界最古の冷凍ミイラである。

・・・・・・

世界最古の冷凍ミイラ“アイスマン”が初めて完全解凍され、徹底的に調べられることになった。有史以前の暮らしを知る鍵が詰まった超一級の文化遺産は、私たちに何を語りかけるのか・・・?

・・・・・・

“アイスマン”の解凍・調査に密着し、分析から得られた最新の知見を紹介。壮大な歴史ロマンの世界へいざなう。

・・・・・・

※なお、番組の詳細は、「NHKスペシャル 完全解凍!アイスマン ~5000年前の男は語る~」もしくは「ETV特集 アイスマン ~5000年前の男は語る~」をご覧ください。

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春の生活の仕方(2013年3月)

3月に入り春の季節になりました。

春は「草かんむり」+「日」+「音符・屯」の会意兼形声文字で「地中に陽気がこもり、草木がはえ出る季節」を示します。 

二十四節気では立春から立夏の前日までですが、一般的には3月~5月が春の季節とされています。(旧暦では1月~3月になります)

まぁ、北海道は本州とは違いまだまだ寒い日が続きますが・・・

東洋医学では春は肝の臓が変動する季節とされています。

肝の臓が変動するとイライラ、頭に気が上る、胸脇部の張りなどの症状が出ます。

『黄帝内経素問』の「四気調神大論」には季節に応じた生活の仕方が書かれており、春は庭に出てゆったりと歩き、髪をほどいて体をゆったりとさせるのがよいと書かれています。簡単に言うとリラックスですね。

肝の臓の病変は簡単に言うと過緊張、自律神経の交感神経優位の状態なので、もともとその傾向の人は春は特に気をつけた方がよい季節です。

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『総合診療医ドクターG』(2012年9月)

『総合診療医ドクターG』は、NHK総合テレビで毎週木曜日の22:00~22:43に放送されている番組です。

現在の放送は第3シリーズで残念ながら今月の9月27日で終わりとなりますがとても興味深い番組でした。

番組内は浅草キッドを司会に「ドクターG」と呼ばれる現役医師が出題者となり、実際に「ドクターG」が関わった症例の再現ドラマの後、その時点で考えられる病名について現役若手医師の「研修医」と症例検討会形式の討論を経て病名を絞り込んでいき、正解と解説が発表されるというものです。

私が個人的に面白いと思ったのは、ドクター ジェネラル(総合診療医)が問診と簡単な検査で病名を推論していくところで、患者の様々な症状から根拠に基づき可能性のある病名をいくつか挙げ、患者の症状における矛盾点から消去していき正解を導きだすというところでした。

これは私達が行っている「弁証論治」そのものです。

もちろんドクターであれば西洋医学的な病因論・病理論により「病名」を導きだし、私達は東洋医学的な病因論・病理論により「証」を導きだすので背景となる理論は全く異なりますが、正解を導きだすための論理的な手続きは一緒でした。

その他番組では、よくある病気から考える、危険な病気から考える、体を一元的に考えるなど私達と共通する考え、参考になる考えがありとても面白かったでした。

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漢字で見た陰陽五行(2012年2月)

今回は東洋医学の基本概念である陰陽五行のそれぞれの漢字を手元の辞典(『漢辞海』三省堂)で調べてみました。

日差しからかげになる側。山の北側。きた。川の南側。みなみ。くもり。黒くたちこめた雲。かげ。背面。男女(特に女性)の生殖器の通称。時間。年月。月。中国古代哲学の概念。姓。

『説文解字』形声文字で、門を閉じて暗いさま。川の南岸、山の北側。「こざとへん(=おか)」から構成され右の部分が音をあらわす。

日なた。日のあたる側。山の南側。みなみ。川や湖の北側。きた。太陽。日の光。ひ。中国の古代哲学の概念。男性の生殖器。地名。姓。

『説文解字』形声文字で、高い。明るい。「こざとへん(=おか)」から構成され右の部分が音をあらわす。

数の名。いつ。いつつ。五回という度数。何度も。再三。いつたび。第五番目という序数。五倍。中国の民族音楽の音符の一つ。姓。

『説文解字』指事文字で、五行である。「二(=天地)」から構成され、陰陽が天地の間において交わるのである。

ゆく。いく。歩く。去ってゆく。離れてゆく。おもむく。出かける。流れる。(年月が)経過する。経る。おこなう。従事する。実行する。やってしまう。する。なす。使用する。採用する。広まる。流布する。運行する。めぐる。

『説文解字』会意文字で、人の歩きや走り。(ゆく)と(行きつもどりつする)から構成される。

陰も陽も五も行もすでによく知っている漢字ですが改めて辞書で調べてみると新しい発見があったりして面白いです。

山の北側が陰で南側が陽、川の北側が陽で南側が陰とそれぞれ山と川で陰陽が相対していて、陰陽それぞれが北と南の意味をもっているのも面白いです。

これは比較する相手や条件によって陰陽は変わるという陰陽の一つの特性をここからも知ることができます。

昔気功を習っていたとき中国人の気功の先生が、太陽と月を比較すると太陽が陽で月が陰、でも月と星を比較すると月が陽で星が陰になると言ってました。

五という字そのものに陰陽が天地の間において交わるという、この世界そのものの在りようが表されています。

行は季節や天体が運行する・めぐるという意味があり。

五行は世界というものは天地の間において陰陽が交わるということがずっとめぐっているということを示している。

五行そのものに陰陽が前提として含まれている。

そうすると陰陽五行といっても陰陽が中心なのだろうか?

色々考えると面白いです。

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伝統医学思想の枠組みを考える(2011年2~3月)

中国、インド、ギリシャなどの伝統医学、もちろんそれぞれ異なる文化的背景を持つもので独自のものですが、それらに共通する見方・考え方の枠組みは何かということを今回は考えてみます。

伝統医学に共通する見方・考え方の枠組み、それを一言では言い表せませんが、大きく分けると3つあると思います。

1つは、「体の中に悪いものが存在するため病気になる。だから体の中から悪いものを無くすのが治療である。」というもの。

中国医学ではこの悪いものを邪といいます。
具体的に細かく分けると、オ血、気滞、寒邪、風邪、燥邪、湿邪、暑邪などいろいろあります。

中国医学の古典『傷寒論』は極論すれば、風寒の邪に侵襲された体から汗・吐・下(大便・小便)などの方法を用いて邪を体から無くす方法が書かれた本ともいえます。

汗・吐・下などの方法はインド医学でも重要視されます。
インド医学ではマラ(老廃物)を大便や小便や汗などできちんと排泄しないと病気になるとし、パンチャ・カルマといって様々な浄化法があります。

面白いのは、五臓六腑的にいうと中国医学は五臓を重視しますが、インド医学では六腑を重視するというところでしょうか。

インド医学では消化の火(アグニ)できちっと消化されないことによりアーマといういわば燃えカスが生じこれが重要な病気の原因の一つであるとされます。
そのためインド医学では辛い香辛料で消化の火(アグニ)を高めるのです。

中国医学でも食積や湿痰、日本漢方的には水毒というふうに不消化物も視野には入れていますがインド医学のほうがより重要視しています。

ギリシャ医学においても悪性体液を痰・鼻水・膿汁・汗・尿・大便などで対外に排出することが重要です。
吐剤や利尿剤などの他に下剤や浣腸剤を重視しています。

中国医学、インド医学、ギリシャ医学、いずれも「体の中にある悪いものを無くす」という意味では共通の枠組み・構造をもっています。

ただその対象となる悪いものがギリシャ医学ではより物質的であり、中国医学ではより非物質・概念的であり、インド医学ではその中間のような気がします。

また説明はしませんが、鬼神病理論もこの枠組みに入ると思います。

この思想の枠組みは伝統医学だけでなく現代医学にもあります。
病理細胞を手術により取り除くことや、細菌・ウイルスを体から無くすことは、悪いものの対象が伝統医学とは異なりますが同じ思想の枠組みといえます。

枠組みの2つ目は「体のアンバランスが病気である。だから体のバランスを整えるのが治療である。」というものです。

中国医学では五臓六腑や経絡のバランス、日本漢方的には気・血・水のバランスを考えます。インド医学ではヴァータ・ピッタ・カパのバランス、チベット医学ではルン・ティーパ・ペーケンのバランス、ギリシヤ医学では血液・粘液・黄胆汁・黒胆汁のバランスをみます。

体においてバランスが重要という考え方は現代医学の中にもあって、自律神経やホルモンや免疫機能などはバランスが取れていないと体のホメオスターシス(恒常性)が維持できないとされています。

枠組みの3つ目は「生命の力を重視する。」というものです。

ギリシヤ医学では自然治癒力が最大限に発揮されるようにすることが治療の上で重要だとしています。

中国医学では、元気・正気・真気など色々な呼び名がありますが要するに気が不足していると病気になり気が十二分にある状態だと健康であるとしています。

ちなみに中国医学の気に相当するものはインド医学ではプラーナ、チベット医学ではソク・ルン、ギリシア医学ではプネウマが相当します。

現代医学においてはこの「生命の力を重視する。」という考えは理念としてはあっても具体的な手段としては無いように思います。

「生命の力を重視する。」というのはある意味、「生命の尊厳」につながるのではないでしょうか。

終末医療におけるスパゲッテイ症候群やQOLの問題など現代医学における様々な問題が生命倫理・医療倫理の分野から指摘されています。

再度まとめますと、伝統医学思想における枠組みは次の3つです。

  1. 体の中に悪いものが存在するため病気になる。だから体の中から悪いものを無くすのが治療である。
  2. 体のアンバランスが病気である。だから体のバランスを整えるのが治療である。
  3. 生命の力を重視する。

これらはそれぞれ独立して理論を形成している場合もあれば、それぞれが組み合わさって理論を形成している場合もあります。

例えば鍼灸でいえば、

1の「体の中に悪いものが存在するため病気になる。だから体の中から悪いものを無くすのが治療である。」という考えの治療は、刺絡治療やツボや経絡を考えずコリを取ることを主体とした治療などが入ると思います。

2の「体のアンバランスが病気である。だから体のバランスを整えるのが治療である。」という考えの治療は五臓六腑や経絡を主要な目標とした治療だと思います。

3の「生命の力を重視する。」という考えの治療は、例えば澤田流太極療法などはこの考えに基づいていると思います。万人に共通の基本配穴をまず行い生命の力・三焦の元気を高める、これが澤田流の基本的な考え方です。

この3つの考えが組み合わさって出来たのが「証」という概念だと思います。

1の部分は、実(邪実)として捉え、寫法を行います。

3の部分は、虚(正気の虚)として捉え、補法を行います。

そしてその実や虚が何処にあるのかということで、2の五臓六腑や経絡のバランスという概念を使います。

幅広く伝統医学を学び、そしてそこから鍼灸を見直してみると、改めて鍼灸医学とは何かということを再認識し、実感できるように思います。

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