かんたん中医学講座 第4回「陰陽五行について」
みなさん、お久しぶりです。福田です。
かんたん中医学講座は今回で第4回目となります。
今回のテーマは「陰陽五行について」。「東洋の世界観」に関するお話です。
さっそく講義を始めてまいりましょう。
陰陽五行について
陰陽五行とは古代中国人が生み出した宇宙やその働きを説明するための道具です。
東洋医学だけでなく四柱推命などの占いや風水や武術や気功などの理論を説明するためにも使われます。
もともと陰陽と五行は別々に生れましたが、後に一体として論じられるようになり、より複雑な説明をするために十干(甲乙丙丁戊己庚辛壬癸)や十二支(子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥)などが生れました。
陰陽とは
陰は「ひかげ」、陽は「ひなた」から生れた概念です。
では、陰とは何か?陽とは何か?というと難しいのですが、すべてのものは陰陽いづれかに分けられます。
すべての事物を陰陽の表(ひょう)にして暗記しようとしても、暗記する労力も大変ですしあまり意味が無いように思います。
それよりも、陰「ひかげ」から導き出されるイメージは「暗い、冷たい、地」で、陽「ひなた」から導き出されるイメージは「明るい、温かい、天」であるというコアイメージを持つことが大事です。
というのも陰陽は固定化されたものではないからです。
例えば、太陽と月では太陽が陽で月が陰、では月と星では月が陽で星が陰になります。
つまり比較するもの(太極図の境界)によって陰陽は変わるのです。
いずれにせよ定まった陰陽にはある関係性(法則)があります。
五行もそうですが陰陽という記号には、XやYといった数学の代数の記号と同じように、いろんなものが入り得てその陰陽にはある関係性(法則)があります。
そのような関係性(法則)を学ぶことが東洋医学を学ぶうえで重要とされます。
陰陽の関係性(法則)は様々ありますが、そのうちのいくつかを簡単に述べます。
対立と統一の法則
これはコインを思い浮かべると分かりやすいですが、コインには表(陽)と裏(陰)があり、表と裏は対立した関係です。
しかも表と裏は統一されている、つまり表と裏と両方あってコインは成立している、表だけのコイン、裏だけのコインは存在しません。
消長の法則
これは日時計を思い浮かべると分かりやすいですが、昼太陽が高いときは日時計の棒の影は短く、夕方太陽が低い時は日時計の棒の影は長いです。
つまり陽が大きいと陰は小さくなり、陽が小さいと陰が大きくなるということです。
転化の法則
一定の条件下で陰陽が転化することです。
例えば冬至に向かってどんどん陰は増えていき、陽はどんどん減っていきます。
冬至で陰は最大になり陽は最小です。
しかし冬至を過ぎると逆に陰はどんどん減っていき、陽がどんどん増えていきます。
平衡の法則
太極図を思い浮かべると分かりやすいですが、太極図は黒の魚と白の魚がお互い逆さに組み合わさっています。
黒魚の頭には白魚の尾、黒魚の尾には白魚の頭が組み合わさっており陰陽の消長関係を示していますが、太極図全体を見ると黒と白の魚の面積は等しく全体としてみると陰陽は平衡が保たれていることを示しています。
陰中の陽陽中の陰の法則
陰陽の複雑性を示したもので、太極図で考えると黒魚の白目、白魚の黒目です。
例えば人間は男と女に分かれます、でも詳しく見ればオカマも居ればオナベもいます。
このようにリアルな世界は簡単に白黒つけれないグレーなものであるわけで、それは気一元の世界観とも繋がっていくのですが、世界はそのままでは理解できないので取り敢えず白と黒に分けて理解しようとするときに生じる矛盾を説明するためのものです。
他にも様々な法則がありますが、詳しく知りたい方は『易経』、『太極図説』(周敦頤)、『東洋医学の宇宙』(藤本連風著、緑書房)など陰陽について書かれた本を読まれると良いと思います。
五行とは
五行は鄒衍が王朝の交替を説明するのに初めて唱えたとされています。
古代の中国人にとっては身近な五材(木・火・土・金・水)を使った方が世界を説明しやすく理解しやすかったのだと思います。
我々現代人には五行は非常に難しいのですが、五行を学ぶには(陰陽もそうですが)古代中国人の考え方を知る必要があります。
現代人は差異に着目して分類していくので分類の数がどんどん増えていきます。
しかし古代中国人は似ているものは似たような働きををするという点に着目して、すべてのものを木・火・土・金・水の五つのグループ分けました。それが五行です。
木
『五行大義』に「木は触である。土地に触れて生ずる」、「木は冒である。地を冒して(押しのけて)出ることである」、「木の気を受けた人は細身で体がまっすぐのびている」とあり、また「木に曲直というのは、東方である」(春に地上に生える木は曲がったり真っ直ぐになったりして上に伸びる)というのもあります。
他に木に関するので、少陽、巽(風)、震(雷)、春、東などがあります。
これらを総合してできる木のコアイメージは、形としては縦長の長方形で、性質としては上に真っ直ぐ伸びるのですがその時は動きながら上に伸びる。
なにせ土を押しのけて伸びるのですから、その姿は傍から見ると風に揺れているようにも震えているようにも見える。
そういったのが木のコアイメージだと思います。
火
同じく『五行大義』に「火というのは化である。陽気が働き始めると、万物が変化する」、「夏が仮であるのは万物をゆったりと大きくして成長さすことである」、「火の気を受けた人は頭が小さく下ぶくれで背が低い」とあり、また「火に炎上と曰う」(炎上とは南方であり、盛夏にあって気が極り上がることである)というのもあります。
他に火に関するので、老(太)陽、赤、南、夏、離などがあります。
これらを総合してできる火のコアイメージは、形としては三角形で、性質として明るい、熱い、上、発散、つまり散じる陽的なものです。
土
同じく『五行大義』に「土というのは吐(口からはき出す)である。気の精を含んでいてそれを吐き出し、それによって物を生ずるのである」、「土の気を受けた人は丸顔で大きなお腹である」とあり、また「土に稼穡という」(種を播くことを稼といい、収穫することを穡という、土は地道であり、万物はこの土をつらぬいて生えてくる)というのもあります。
他に土に関するので、中央、土用、黄色、地、坤、艮などがあります。
これらを総合してできる土のコアイメージは、形としては横長の長方形で、性質としてはものを生む、ものを変化させる、またはそういうことを行う場というものです。
金
同じく『五行大義』に「金というのは禁のことであり、陰の気が始めて起こり、万物が成長をやめることである。土は金を生ずる。金という字は土中にあって光っている形を象ったものである」、「地にものを返すことを秋となす」、「秋というのは粛(引き締まる、しずか、ちぢむ)である」、「金の気を受けた人は四角い顔で大きな口」とあり、また「金に従革と曰う」(範に従ってあらたまることで、形があらたまって器になることである)というのもあります。
他に金に関するので、西、白、少陰、兌、乾、雨(『五行大義』)、雲(『淮南子』)などがあります。
これらを総合してできる金のコアイメージは、形としては丸で、性質としては引き締まって下降するというものです。
水
同じく『五行大義』に「水というのは準である。万物を平らにするのである」、「水とはながれるである。陰が変化して湿り潤い、流れめぐってしんとうしていくのである」、「冬とは中である。中というのは蔵ということである」、「水の気を受けた人は顔が大きく体がまがっていて蛇行して歩く」とあり、また「水に潤下と曰う」(水が湿った方に流れ、くぼみに従って下っていくことである)というのもあります。
他に水に関するので、老(太)陰、冬、北、玄色、坎などがあります。
これらを総合してできる水のコアイメージは、形としては不定形で、性質としては冷たい、暗い、下、蔵す、つまり蔵する陰的なものです。
以上が五行のコアイメージですが、具体的に何を何の五行に分けるのかは難しいです。
例えば脾は木、肺は火、心は土、肝は金、腎は水という現在私たちが使っている五臓の五行配当とは異なる説も歴史的にはありました。
しかし、『五行大義』に「疾医とは万人の疾病を治養することを掌る官である。肝を木とし、心を火とし、脾を土とし、肺を金とし、腎を水とすれば、病がいえること多く、その術にそむけば、死んでしまう」とあり、これが現在の私たちの五臓の五行配当へ繋がっていきます。
五行というのはあまねく万物に存在するのであり、ひとつのものにも五行があります。
例えば植物の木が曲がったり真っ直ぐに伸びるのは木の五行があるからであり、木が燃えるのは火の五行があるからであり、木で武器を作り殴ったりできるのは金の五行があるからであり、木のなかに湿り気があるのは水の五行があるからであり、木が花や実をつけるのは土の五行があるからである。
このように五行は五つの働きであり、その働きの多寡、着目点によって、五行に分けた。
逆に言うと同じ働きで分けられたのだから同じ五行は同じ働きをするということです。
五行同士の関係性(法則)
図にすると分かりやすいのですが、五行同士には大きく分けて二つの関係性があります。
①木火土金水を円周上に均等に並べそれぞれを線で結ぶと五角形(相生関係)や星型(相克関係)になる、これが一つ目の関係です。
五角形の関係は相生関係といい、木は火を生み、火は土を生み、土は金を生み、金は水を生むというもので、星型の関係は相克関係といい、木は土を克し、土は水を克し、水は火を克し、火は金を克し、金は木を克すというものです。
ここで重要なのはある五行は他の四つの五行と何らかの関係で結ばれているということです。
例えばある五行が木でも火でも土でも金でも水でも、それを生む五行との間の母子関係は一緒です。
このようにある五行と他の五行の関係性のみを取りだしたのが、四柱推命などで使う六親であり、旺相死囚休であり、『難経』の正邪・虚邪・実邪・微邪・賊邪も同じことです。
いずれにしろこの相生関係・相克関係という五行同士がバランスよく働いていれば五行全体の流れが良い状態といえます。
しかし例えば、侮(反克・通常克される側が克す側を克すこと)や乗(克す側が克す相手を過剰に克しすぎること)などがあると五行全体の流れが悪い状態となります。
また『五行大義』に「相生は必ずしも相生ではなく、相害も必ずしも相害ではない」とあり、機械的に相生・相克を当てはめることは危険であると思います。
②土を中心に上が火、下が水、右が金、左が木と東西南北と中央になる、これが二つ目の関係です。
相生相克関係性よりもこちらの五方位による関係性のほうがどうも古くからあるようです。
一は二を生じ、二は三を生じ、三は四を生じ、四は五を生じるや一日の変化や一年の季節の変化などを説明するのにはこの関係性(法則)が有用です。
金元の四大家の一人、李東垣の補土派などの理論はこの五行の関係性をつかっています。
以上をまとめると五行の関係性には様々なパターンがあり、目の前の事象がどのパターンなのかを機械的にではなく、きちんと見定めて決めることが大事だと思います。
五行の運用
一般的に、ある五行が弱い場合は、母の関係の五行を使うか、その五行と同じ五行を使ってその五行を強くします。
また逆に、ある五行が強い場合は、子の関係の五行を使うか、その五行を克す五行を使ってその五行を弱くします。
東洋医学の場合は「虚すればその母を補い、実すればその子を瀉す」という使い方が通常です。
しかしこの五行の運用に関しても、いろいろな考え方があっても良く、もっと自由な使い方もありえるように思います。
五行は実際の運用の場面では非常に便利な半面、理論だけで考えていくと訳が分からなくなるところがあります。
ある意味五行は、易と同じように、理論的認識だけではなく直観的認識を含んだもののように思います。
これで第4回目の講義、「陰陽五行について」を終わりにしたいと思います。ご精読ありがとうございました。
参考文献
『五行大義』(中村璋八著、明治書院)
『素問医学の世界 』(藤木俊郎著、績文堂)
『陰陽五行説』(根本光人著、薬業時報社)
『東洋医学の宇宙』(藤本連風著、緑書房)