かんたん中医学講座 第9回「鍼灸について」
みなさん、お久しぶりです。福田です。
かんたん中医学講座もようやく第9回目を迎えました。さあ、頑張ってまいりましょう。
鍼灸治療においてはツボというものが切っても切り離せないものです、それで今回はツボについて考えてみたいと思います。
日本最古の医学書『医心方』の肺兪のところを見てみると、
肺兪二穴:
第三椎の下の両旁、各一寸半に在り。刺入るること三分。留むること七呼。灸は三壮。足の太陽、膀胱。
肺、寒熱にて呼吸得ず。臥すればしわぶきし、上気し、沫を嘔き、喘気、胸満し、脊急り、食を嗜まず、背強ばり目反り、盲見し、セイショウにして、泣出で、死して人知らざる、を主る。
以上から気管支炎、喘息、ヒステリーなどの主治穴ということが分かります。
時代が下って、江戸時代、杉山流の『療治之大概集』の咳嗽のところを見てみると、
咳嗽:
天突、肺兪、下カン、上カン、不容、章門、百会
中国明の時代、『鍼灸大成』の咳嗽のところを見てみると、
咳嗽:
列缺、経渠、尺沢、魚際、小沢、前谷、三里、解谿、崑崙、肺兪、ダン中
以上のように、臨床で使いやすいように症状によって主治穴が纏められていきます。
流派によってツボが異なるのは流派ごとの考え方の違いが知れて面白いですが、このように主治穴によって選穴するやり方が一つあります。
五行穴、五兪穴などの要穴によって選穴するやり方もあります。
要穴は五行穴、五兪穴の他にも絡穴、ゲキ穴、募穴、八総穴、八会穴、四総穴など様々ありますが、ここでは五行穴、五兪穴のみ取り上げます。
五行穴とは十二経絡それぞれに木、火、土、金、水の五行のツボが決められています。
五兪穴とは十二経絡それぞれに井(脈気が出るところ)、エイ(脈気が溜したたる所)、兪(脈気が注ぐ所)、経(脈気が行く所)、合(脈気が入る所)のツボが決められており、それぞれ心下満、身熱、体重節痛、喘咳寒熱、逆気而泄を主るとされています。
従って例えば咳嗽であれば五行穴の金穴や五兪穴の経穴を使うのもひとつの考え方ですし、ストレートに肺経を使うのも一つの考えです。
また経絡治療のように例えば肺虚証であれば太淵太白というように五行穴を組み合わせるのも一つの考えです。
主治穴は経験の積み重ねでありますが、要穴というものが出てきて、ある意味ツボの理論化が始まったといえると思います。
次に穴性について、穴性とは証に対応したツボの性質を定めたものです。
例えば咳嗽、咳嗽も色々な原因がありますが、肺気虚による咳嗽であれば、直接肺兪や太淵で肺の気を補うのでよいのですが、気を補う作用をより強めるのに、足三里や中カンなど補気作用のあるツボを加えるのも一つの考え方です。
穴性によりさらにツボの理論化がなされたともいえると思います。
一応穴性を簡単に紹介します。
証 | 治則 | 方剤 | 配穴 |
---|---|---|---|
気虚 | 補気 | 六君子湯など | 足三里、中カンなど |
血虚 | 補血 | 四物湯など | 三陰交、血海など |
気滞 | 理気 | 香蘇散など | 合谷、太衝など |
オ血 | 理血 | 血府逐オ湯など | 膈兪、三陰交など |
最後にツボの反応について、ツボの反応は弛緩、硬結、熱感、冷感などがあり、それを手指や手のひらなどで触知するものですが、ここでは先人がどのように捉えていたかの一端を紹介できればと思います。
ここでは具体的なやり方等は述べませんが、体表観察の技術に興味のある方はもいらっしゃると思います。
流派などにより捉え方や呼称が多少異なることがありますが、藤本先生が一番体系的に体表観察をまとめられていますので、『鍼灸医学における実践から理論へパート2』(藤本連風著 たにぐち書店)、『鍼灸臨床能力 北辰会方式実践編』(藤本連風監修 緑書房)などが大変参考になると思います。
深谷灸法基本十法
- 経穴は効くものではなく効かすものである
- 成書の経穴部位は方角を示すのみ
- 経穴は移動する
- 名穴を駆使して効果を挙げる
- 少穴で効果をあげるべきである
- 反応の無い穴は効き目が少ない
- そこが悪いからといってそこにすえても効果は無い
- 名穴であってもただそれだけに効くのではない
- 灸の大小壮数は患者の体質にあわせよ
- 経穴は手際よく取穴せよ
(『お灸で病気を治した話』(深谷伊三郎著 鍼灸の世界社))
「沢田先生の取穴は極めて自由で経穴の分寸にあまり拘泥しなかった。反応のあらわれを子細に観察して、あらわれた処に治穴を求めたのである。これは特に断っておきたい点である。」
(『鍼灸真髄』(代田文誌著 医道の日本社))
以上簡単ですが鍼灸治療におけるツボについてお話しました。
これで第9回目の講義、「鍼灸について」を終わりにしたいと思います。ご精読ありがとうございました。